「情報」は元軍事用語
「情報」という語は、<表現態が伝達する社会的認識>という意味で広く使われている。
この概念は英語 information の翻訳と思っている人がいるかもしれないが、初めはそうではなかったらしい(以下の記述は、魚田勝臣編著『コンピュータ概論』共立出版、1998年、69-70頁による)。
かつては、クラウゼヴィッツ『戦争論』に使われている Nachricht というドイツ語を、森鴎外が「情報」と訳した(1903年)のが起源とされていた。
その後、1990年ごろの調べで、1876年にフランス語の軍事教練用書物にある renseignement という語を酒井忠恕陸軍少佐が「情報」と訳していたことがわかった。
いずれにしても、「情報」(事情の報せ)は軍事用語として導入された概念であった。
この語がとくに使われるようになったのは昭和以降で、戦前は軍事関連の「諜報」「スパイ」「工作」といった概念と親近性のある軍事用語であった。
「情報」という日本人による翻訳語は、日本に来た中国人留学生などによって中国に持ち込まれ、現在では中国語の語彙にもなっている。
ドイツ語でもフランス語でも、つづりと発音は多少異なるが、現在では「情報」の意味では英語系の information という語がよく使われるようになっている。
*英語 information は、「心象を形づくる」という意味のラテン語 infomare から来た語。
ドイツ語やフランス語から日本人がつくった「情報」という概念が、のちに英語 information の翻訳語としても日本人に認識されるようになったのだろう。
Nachricht、renseignement、 information、「情報」
近代国家の軍事活動が媒介となって、ひとつの概念が衣装(音声・文字)を替えながら国際的に広まり、アルファベット圏では information、漢字圏では「情報」へと表現態が統一していった例である。
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