「弓矢を上に射る」 よい声のコツ

テノール歌手の竹田昌弘氏が、素人にもわかる発声のコツを書いている。

それによると、

■歌の発声とは、「響き」をつくることである。

「響き」の基本技術は三つある。

①「支え」… 横隔膜を深く安定させることだが、その要領は、「上方へ弓矢を射るとき、弓を下方に引きおろす感覚」である。 これによって声がぶれず、声に芯ができて自然なビブラートがかかる。

これは背中から下へひっぱる(下方への引力を感じる)ということで、とくに高音を出すときに重要な体感要領。感情をこめればこめるほど、姿勢は前傾しやすいが、逆に、後ろにカラダを残す。習得には何年かかかる。

②「ポルタメント」… 二つの音のあいだを滑らかにスライドさせる技術。①の「支え」が安定していることが条件。美空ひばりは、これがうまい。

③「チェンジ」… 胸声と頭声を滑らかに切り替える技術。男女を問わず、「レ」から「ファ」のあたりに境界線がある。

■言語により音色(声の深さ)に違いがあることを心得て、要領を変える。

音色は、息の流れを変えることで変えることができる。

①イタリア語… 浅く明るい音色。母音も子音も数が少なく、子音+母音で一音符になりやすい。母音で歌う言語で、日本語に近い。上歯の裏側に息をあてる

②ドイツ語… 深く重い音色。子音をいかにレガートに歌うかがポイントで、全体に子音で歌う言語である。あごまわりは硬くせず、脱力して、やわらかく唇や舌を使う。息はノドチンコのあたりにあてる。日本人にはドイツ語のほうが難しい。

(以上、竹田昌弘「響きを求めて」、日本ワグナー協会編『年刊ワグナー・フォーラム2005』、2005年所収、111-113頁)

この区別でいくと、日本語はイタリア語系、英語はドイツ語系である。

どちらにせよ、背中から頭の上に矢を放ち、同時に、腰のほうに弓の弦を引き下げる要領は、人間の「いい声」の共通条件のようだ。



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