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「千の風になって」の英語原文と日本語訳について

「千の風になって」は世界的に有名になった詩で、日本でもヒット曲になった。

新井満氏の訳詞は、こう始まる。

「私のお墓ので泣かないでください」

たしかに、日本語では「お墓の前で泣く」という表現がしっくりくる。

ところが、Mary Elizabeth Frye  作とされる英語の原詩は、

"Do not stand at my grave and weep "

となっている。

at は「お墓で」。つまり墓と呼んでおかしくない物理的・心理的な範囲を指定しているだけなので、必ずしも「お墓の前」でなくてもよい。

しかも、英語の原詩では、stand, つまり立って泣いている。

日本語で「お墓の前で泣く」といえば、おそらくしゃがんでいるのではないだろうか。

墓参の光景のイメージのちがいであろう。

もうひとつ、訳詞では、次のような部分がある。

「冬はダイヤのようにきらめく雪になる                   秋は光になって畑にふりそそぐ」

これだと、雪そのものがダイヤのようにきらめき、光が直接畑にふりそそぐ。

ところが、原詩では on が使われていて、意味が微妙にちがう。

"I am the diamond glints on snow.
I am the sunlight on ripened grain."

これは、「私」がダイヤの輝きや日光になって、雪や畑の「上」で、生きているように活動するイメージである。

日本語として自然な表現を選ぼうとすると、どうしても原文とは微妙にちがってくる。

角度をかえていえば、訳詞 とはひとつの創造だともいえる。


✳︎ 英語の原詩は次の通り。

Do not stand at my grave and weep
I am not there. I do not sleep.
I am a thousand winds that blow.
I am the diamond glints on snow.
I am the sunlight on ripened grain.
I am the gentle autumn rain.
When you awaken in the morning's hush
I am the swift uplifting rush
Of quiet birds in circled flight.
I am the soft stars that shine at night.
Do not stand at my grave and cry;
I am not there. I did not die. 



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