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文法用語の洗練は外国語の操作規範を高度化し外国語の習得をスムーズにする

片野善一郎『数学用語と記号ものがたり』(裳華房、2003年)

数学の発展を表現の観点から概観した本。

タイトルが示すように、「用語」と「記号」はちがう。

用語とは、分数、方程式、正数、負数、微分、積分といった<言葉>のことで、西洋で発達した数学用語を、日本ではこのような漢字の熟語に翻訳している。

明治13年に設立された数学用語の「訳語会」が、6年余の議論を経て478語を確定したのが始まりである。

その後も新しい数学が伝わるごとに訳語がつくられ、おおむね安定したのが1930年ごろ。

その後も学術会議を中心に改良され、現在つかわれている数学用語は、文部省が1954年に制定したものである。64-65頁

われわれは数学の記号の意味を、漢字の数学用語で了解してきたわけである。

他方で、記号とは未知数を x と書いたりするもので、これで方程式を書き、演算したりするから、簡潔で書きやすいものが良い。

たとえば、f は演算のときはそのまま記号で  f と書くが、これが表す概念を了解するために、われわれは「関数」という新しい用語を制定したわけである。

このように、適切な用語の開発が日常言語を超えた数学の理解と発展を支えた。

数学は記号による言語だといわれるが、数学の歴史は記号の概念内容がわかる用語の発達の歴史でもある。

...

外国語において、数学における用語にあたるものが、文法用語である。

記号が読めても方程式の意味がわかるとは限らないように、アルファベットが認知できても語や文の意味がわかるには文法の知識をもつことが必要である。

ネイティブは記号だけで意味がわかるが、非ネイティブは記号が表す意味を適切に説明してくれる文法用語を必要とする。

たとえば、"dog "は記号としては誰でも読めるが、これを英語として使うには、それが表す概念の種類が名詞であり、文中で主語になりうることを知っている必要がある。

この「名詞」とか「主語」というのが、文法用語である。

数学の記号の意味を説明する数学用語が工夫され改善されてきたのと同じように、文法用語を改良すれば外国語の音声・文字がより理解しやすくなり、外国語の操作性も高まる。


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