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なぜ言語の音体系は美しいか

フランスの言語学者・A・マルティネ(1908-1999)は、言語の音には「経済性の原理」が働くとした。

全体のなかにうまく組み込まれていない、仲間はずれの音があると、それだけのために特別の動きが必要になるので、「経済的」ではない。すべての音を効率よく組み込んだ、より言いやすい体系を求めて、言語は刻々と変化する、と。(マルティネ『言語学事典』大修館書店)

同じようなことで、「縄張りの原理」というのもある。人は狭い口内空間を最大限に活用し、どの音も言いやすく聞き取りやすく、心地良いものにしようとする。そこで、それぞれの音にできるだけ平等の空間を割り当てようという欲求が自然にはたらく。(窪薗晴夫『日本語の音声』岩波書店)

電車に乗ってきた客が、距離をおきながら座り、やがてきれいに並ぶようなもので、口の中で、無意識にそれぞれの音の「縄張り」が確保されていく。

こうした「原理」の結果、どの言語も整然とした発音体系をつくり、かつ次のあたらしい体系を求めて変化していく。

「こちらのほうが心地いい」とか、外国語の影響など、なんらかの事情がはたらいて一部に異変があると、長い時間をかけ、人々は音の体系全体を変化させていくわけだ。

それはあたかも、真珠貝に小さな異物を入れると、きれいな真珠の玉ができるのに似ている。


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