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翻訳のワースト部分は「長さ」

ある大部な英書を日本語に翻訳している。

翻訳について思うことはいくつかあるが、ひとつ痛感するのは、翻訳の最大の要素は、「長さ」にあるということ。

以前、プロの翻訳家から、こんな話を聞いた。

「一冊訳していると、途中で必ず、翻訳が嫌になる時期が来ます。原文の内容は面白いし、嫌になる理由はないはずなのに、必ず、うんざりしてしまうんです。」

同感だ。

これは本を書いているときも同じで、書きたいと思って書き始めたのに、途中で嫌になり、投げ出したくなった経験のある人は多いと思う。

翻訳の場合、目に見えるかたちでゴールが存在するし、淡々と訳していけば必ずテープは切れる。

それがわかっているのに、途中で壁に閉じ込められたような閉塞感がでてくる。

たぶんこの問題の処方箋は、ゴールが遠いところにあると思うのではなく、目前のものがすなわちゴールだと思う訓練にあるのではないか。

「あと300ページもある」

と思うと、つらくなってくる。

「このページは面白かった」

という思いに集中していると、いつも楽しいだろう。

「終わりがある」と思わないで、このページが永遠へとつながっていると思うこと。

翻訳に終わりはないと思うこと。

すると、このページに集中する以外にすることはなくなる。

これが「長さ」を克服するいちばんの方法なのかもしれない。


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