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大学入試問題(数学,名古屋市立大学1966)を解いてみた<大失敗>

人生に行き詰ったので、手元に落ちていた「大学入試数学不朽の名問100」(BLUE BACKS, 鈴木貫太郎著2021年刊)を眺めたところ、面白い(と私が感じる)問題があったので紹介する。

問題67.
a,bを正の整数とする。このとき
(1) $${\sqrt{2}}$$が$${\frac{b}{a}}$$と$${\frac{2a+b}{a+b}}$$との間にあることを示せ。
(2) $${\sqrt{2}}$$は$${\frac{b}{a}}$$と$${\frac{2a+b}{a+b}}$$とのどちらに近いか。 (名古屋市立大学 1966年)

これに対して示されていた模範解答は、
(1): (1)の条件は$${(\sqrt{2}-\frac{b}{a})(\sqrt{2}-\frac{2a+b}{a+b})<0}$$と同値であるからこれを示す。この式の左辺を7回ほど変形すると
$${\frac{1-\sqrt{2}}{a(a+b)}(\sqrt{2}a-b)^2}$$となり、$${1-\sqrt{2}<0}$$かつ$${{\sqrt{2}}}$$の無理数性より$${(\sqrt{2}a-b)^2>0}$$ (0にはならない)から証明された。

(2):
$${\vert \frac{b}{a} - \sqrt{2}\vert=\vert\frac{1}{a}(b-\sqrt{2}a)\vert}$$(ア)と
$${\vert \frac{2a+b}{a+b} - \sqrt{2} \vert}$$(イ)の大小を比較すれば良い。私にとっては驚くべきことに、(イ)式は
$${\vert\frac{(b-\sqrt{2}a)(\sqrt{2}-1)}{a+b}\vert}$$と因数分解される。(ア)と(イ)の共通因子$${b-\sqrt{2}a}$$を消去して比較しても(絶対値がついているから)大小は変わらない。結局、
 $${\vert\frac{1}{a}\vert}$$ (ア')と
 $${\vert\frac{\sqrt{2}-1}{a+b}\vert}$$(イ')
の大小比較になるが、$${a,b>0}$$より(イ')の分母は(ア')より大きく、分子は
$${1}$$と$${\sqrt{2}-1}$$なので(ア’)が大きい。したがって(ア')>(イ')であり、
$${\frac{2a+b}{a+b}}$$の方が$${\sqrt{2}}$$に近い。

というものであった。分かりやすく素直な計算に帰着するものである。しかし、私にはどうも「胃の腑に落ちない」証明と感じられ、なにかもう少し直観的な(多少数学的に不正確であっても)計算や証明がありそうに思えた。

YM4的思考

まず問題が綺麗である。かなり横道に入った感想であるが、もし問題が
(1') a,bを整数とする。1がb/aとa/bの間にあることを示せ。
であったら、小学生にも一目瞭然なのではないか。(「間にある」ということを、等号も許すとしたら。)
私がまず感じたのはそういう美しさだった。
 そして、(1)に戻って、b/a=$${\sqrt{2}}$$と仮定すると(整数条件を外して)、(2a+b)/(a+b)も$${\sqrt{2}}$$になる。つまり、b/aと(2a+b)/(a+b)は二人さまようが、いつも$${\sqrt{2}}$$を挟んで数直線上で逆側の位置におり、出会うのは(整数条件を外してよければ)$${\sqrt{2}}$$だけであり、整数条件を外さない限り、二人が出会うことはないのである。
 と、このような悲恋を見て、YM4的に思考が始まった。

まず、aとbと、二つ数があるのが無駄に思えた。やはり、恋心は一人に向かっていることが望ましい気がする。そこで、x=b/aとおいてしまおう。
そうすると、y=(2a+b)/(a+b)とおきたくなり、分母分子をaで割って
y=(2+x)/(1+x)=1+1/(1+x)
という分数関数になる。グラフを書いてみると

1.y=1+1/(1+x)のグラフ

ここで、点Aは、$${(\sqrt{2},\sqrt{2})}$$である。(xに$${\sqrt{2}}$$を代入すればこの点を通ることが分かるが、そもそも上で私が感動していたところである。)
 さて、このグラフを見れば、その単調減少性から、xが$${\sqrt{2}}$$を超えたら=点Aより右にいったら、yは$${\sqrt{2}}$$を下回る。また、x>0の範囲で、xが$${\sqrt{2}}$$を下回ったら、yは$${\sqrt{2}}$$を上回る。……このことは、(1)を証明していることに他ならない。

では、(2)の証明を行う。準備として、
 不等式|x|>|y|が定める領域を図示する
と、次のようになる。

2.|x|>|y|が定める領域

これにより、$${|x-\sqrt{2}|>|y-\sqrt{2}|}$$が定める領域は、この領域を右上に$${(\sqrt{2},\sqrt{2})}$$ずらしたものになることが分かる。

3.|x-√2|>|y-√2|の成立する領域

さて、もとの問題(2)は、x=b/a>0(有理数)とおいたときに、y=1+1/(1+x)で与えられるyに対してxとyのどちらが$${\sqrt{2}}$$に近いか、というものであった。

4.x>0の範囲では、グラフy=1+1/(1+x)は3.の領域に含まれる

上4図で、簡単に「含まれる」と書いてしまった。これを認めれば(2)の回答は「y=(2a+b)/(a+b)の方がx=b/aより$${\sqrt{2}}$$に近い」となり、問題は解決である。簡単ではないが、次のように正当化される。まず$${x>\sqrt{2}}$$においては、曲線y=1+1/(1+x)は単調減少であるから直線x=yより下にあることがわかる。またこの曲線は下に凸であるから、直線$${y-\sqrt{2}=-(x-\sqrt{2})}$$と3回以上交わることはない。(発散の仕方から)$${x\leq\sqrt{2}}$$の範囲で二回交わっているからそれ以上まじわることはなく、この曲線は$${x>\sqrt{2}}$$で4図紫領域から出ることはない。次に、$${0 < x<\sqrt{2}}$$においても、曲線の短調減少性から直線x=yより上にあり、また、直線$${y-\sqrt{2}=-(x-\sqrt{2})}$$と二回交わっておりかつ左の交点のx座標は負であるから、この範囲でも曲線は4図紫領域から出ることはない。

終わりに

ちっとも易しくなっていないし、腑にも落ちないし、解答に時間がかかるし、しかも証明があっているという自信すら得られない、という惨憺たる解答になってしまった。(自分が受験生だったころ、この癖のせいか、数学の試験の成績は惨憺たるものであった。)
 が、私はこの「二通りの解法」を見て満足感を得るにいたった。この、私のような解法は、受験等では顧みられないものかも知れない。………そう、私が「必要」だと思ったものは、全てなくなっていく。これは、漫画家島本和彦が「マンガ店長」で語っていたことだった。
 という愚痴で、この駄文を締めくくらせていただく。


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