「君のくれたアステリズム」のお話


「君のくれたアステリズム」
作詞作曲:まふまふ

小さく震えてアンコール お招きされて90度
ファイティング仕立ての最終回さ
言うなら風まかせ
星の煌めく滑走路 くるり 360度
こっちの隅からあっちの海まで
満天の星空

ドキドキしながらアンコールの声に応えてステージへ登場し、深くお辞儀。
十分に勢いづいて出てきたライブの終盤。
もうここに出たあとは、その場の雰囲気に感化されるように、思わず走り出す。
花道の左右にも、ステージの全方位にも無数のペンライト。
 

何の夢? 何の夢?
うなされるだけねむれるレプシー
いつか見た恐怖でも 震える手足でも

―――君の声がした。

レプシー:~lepsyの形で、「~症」を意味する。
発作的にうなされた分だけ眠りにつくような日々、
こわかったことも覚えているし、不安や緊張もぬぐえない。
そんなときに聞こえる観客の声。

歓声とピンスポット パステルのティアドロップ
ソーダの雨とジェラート 銀河に盛りつけて
きっとこの物語は誰かの夢

歓声を浴び、スポットライトを浴びる自分。
色鮮やかな照明。
ソーダは観客の感極まった涙だろうか。
ジェラートとは、いずれ溶けてなくなってしまう今だけの幸福。
様々な感情がこの空間に混在する。


君がくれた答えだったの? アステリズム
どんなかけ違いも間違いじゃなかったこと
もうひとりぼっちじゃないこと 

「アステリズム」とは、認識できる星群。
(※星座と似てるが、星座は星の集まりというより、星がまとまって形をつくっているという空間的な概念に近いかと)
「君」(=観客)がくれたアステリズムとは、会場に広がる満天のペンライトのこと。
孤独から抜け出した『水彩銀河のクロニクル』という曲があるが、その「銀河」をライブ会場で目の当たりにしたことで、この曲が生まれたのだろう。

空に落ちて その空も落ちた
潮騒が静を薙ぐ

この空は銀河と言い換えてもいいかもしれない。
つまり海のようなもの。
自分が銀河に飛び込むと、その反動でしぶきが跳ねて落ちる。
これは、ライブの幕開けと共に会場が盛り上がっていく様を言っているのだろうか。


いつまでも いつまでも
失ったものに泣いているメロディ
こんな独りよがりを愛してくれる声...

―――君の声がした。

今でも、彼は過去の悲しみや辛さを背負った曲を歌い続ける。
そんな曲に惹かれ集まってくるリスナー。


大切なものほど 両手におさまらない
今日くれた景色は いつまでも続かない
瞬きの間に消えた星屑みたい

彼はたびたび歌詞で、幸せが手からこぼれおちるというような表現をする。
本当は大切な宝物のように手で包み込んでおきたいが、自分では受け止めきれないほどの幸せな空間。
ほんの2-3時間で終わってしまう、束の間の大切なもの。


君も何処かへ行っちゃうの? アステリズム
目を覚ましたノワール 闇夜に巻き戻る世界
まだ聞きたいことがあるのに

今日の目の前の星群もやがてなくなってしまう。
ライブが終わり、眠りについて目が覚めたそこにあのペンライトでできた銀河はない。
電気の消えたいつもの部屋に戻っている。
「どんなかけ違いも間違いじゃなかったこと もうひとりぼっちじゃないこと」を教えてくれた君に、ほかにも聞きたいことがあったのに、君はいない。


未だ見えない 未だ見えない ここは?
雲のかかった夢のないボクが
絆されて 照らされて
そして世界へ向き合える時まで

前パートの「まだ」がほかにもあるという追加の表現であるのに対し、この「未だ」は表記から、現時点でその段階に到達していないという意味であることが明確に区別されている。
この部分は、君にほかに聞きたかったことだろう。
日常に戻ったとき、あの幸せを感じることはできない。
自分が生きるこの場所、この世界は、なんなんだろうと。
夢を見ることができない自身が、情につき動かされ、光に照らされることによって、世界に対峙しようと考えている。
「世界“と”向き合う」ではなく、「世界“へ”向き合う」という表現なのは、君のおかげで、世界へ意識のベクトルを向けることができるという意味合いだからだろう。  


歓声とピンスポット パステルのティアドロップ
ソーダの雨とジェラート 銀河に盛りつけて
きっとこの物語は誰かの夢

君が変えてくれたんだよ アステリズム
どんなかけ違いも間違いじゃなかったこと
もうひとりぼっちじゃないよね

前の部分では、君がくれた答えだったの? と聞いていたが、ここでは確信している。そんな風に考えられなかった自分が、これでよかったんだと、今はひとりぼっちではないと。



『水彩銀河のクロニクル』はクロニクルというだけあって、過去から現在に縦に流れていくような曲だったが、
『君のくれたアステリズム』はその河を流れて到達した場所に見た景色、横の広がりを描いた曲になっているように思う。

星の一つとして純粋に嬉しい一曲だ。



AY

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