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結びつく匂いの話

昔友人が、「就職を機に越した先が程よい田舎で、雨が降ると独特の匂いがする。高校生の頃、当時の恋人と歩いた帰路と同じ匂いがして、終わった恋を思い出してしまう」と言っていた。
胸が締め付けられるような思いのする話なので、本人には申し訳ないが、美しい話だなぁと思った。

しばらく後、私も同じ思いをすることになる。転職後の会社で工場長なる人がいた。その人の煙草の銘柄が昔付き合っていた人に近いものだったのか、彼を思い起こさせる匂いをしていた。
それでもまあ、記憶というものは薄れていくもので、工場長と会っても時間が経つとともにあまり思い出さなくなってきた。臭いと感じるものすら愛おしいと思って、あれほど深く五感に刻まれていたのに、記憶は薄くなっていくものだ。忘れたいと願っていようがいまいが関わらずである。

私もそうでありたいと思う。恋人にしろ、友達にしろ、職場の人にしろ、誰かの五感の記憶に深く刻ませてほしい。
私が香水を振り撒く理由の一つだ。


そもそも、昔から匂いものが好きである。
香水とか、ボディミルクとか、ピローミストとか、その類が好きで、何かと使用というか収集してしまう。

最近はお香を始めた。前からお香の香りが好きだったので、始めたいと思っていたのだ。
とっておきに可愛いお香立てを買い、陶器市でおしゃれな小皿を買い、松栄堂で入門編のようなアソートを買った。

当然良い香りでハッピー!なのだけれど……

思い起こすのは、お葬式、お墓参り、広めのジャンルで言うところの人死にとか不幸である。

それでも、良い匂いであることは変わりはない。花だとか香木だとか。フレーバーごとに様々な香りがするが、その下地にどうしようもないくらい「お香の匂い」という匂いがする。

きっと毎日続けていると、それは人死にとか不幸じゃなくて、リラックスする時間と結びつくようになるのだろう。
そのうちお墓参りでもお葬式でもリラックスできてしまうかもしれない。

そうなる時まで、この趣味は辞めたくないものである。

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