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ウイルスの除去や、有症状のCOVID-19からの回復に働いているCD8+T細胞は、以前のコロナウイルス感染で誘導されたものではなく、まして、COVID-19ワクチン接種で誘導されたものでもない。

Dr. Geert Vanden Bossche 2023年7月14日投稿
CD8+ T cells are neither induced by previous coronavirus infection nor by Covid-19 vaccination!
(本文PDF)
の翻訳です。原文を参照の上ご利用ください。

多くのT細胞派の科学者は、CD8+T細胞免疫の持続的な活性化と最適化は、次世代型COVID-19ワクチン戦略の賜物だと信じ続けている。彼らは間違っているうえ、急性自己限定性ウイルス感染を終息させる免疫学的メカニズムが慢性ウイルス感染に関わるものとは根本的に異なっていることを理解していないようだ。
彼らは、宿主と病原体の間の適応的相互作用に関する、お粗末な免疫学的洞察と理解にもとづいて、COVID-19パンデミックはもはや制御されていると主張している(終息した!とさえ言っている)。さらに、重症COVID-19疾患の防御は、主に、交差反応性の記憶T細胞によるものであり、恒久的であると主張している。したがって、彼らは、ウイルスの病原性に対する大規模な免疫圧力の着実な増加が、ついには強毒性の変異を取り込んだオミクロン子孫株の自然選択を促進するということが理解できないのだ。このような新しい変異株の自然選択は、COVID-19ワクチン接種率の高い国々に、未曾有の健康上の危機という差し迫った脅威をもたらす。


接種者の重症COVID-19疾患防御は長く持続すると主張し続けている科学者達がいる。彼らは、その防御は、主に、交差反応性記憶T細胞(COVID-19ワクチン接種や季節性ヒトコロナウイルスへの曝露によって誘導された、ということのようである)のおかげであると誤って考えているのである。

第一に、接種者の交差反応性記憶T細胞が、時たま重症化を防御することもあれば、時には全く発症させないこともある、ということを理解するのは困難である(それぞれ、オミクロン株に対してブレークスルー感染した場合と、初期のオミクロン子孫変異株にブレークスルー感染した場合に該当する)。 例えば、同一のMHCクラスIハプロタイプを背景として誘導された交差反応性CD8+記憶T細胞が呼戻された時に、そのような機能的多様性を示すということはこれまでに報告されたことがない。

もし、交差反応性記憶T細胞が、自然感染やワクチンによって得られる防御の、主なメカニズムであるならば、有症状感染から完全に回復した者は、それ以降は有症状感染を起こさないはずである。(しかし、実際は、オミクロン前の変異株に有症状で感染して完全に回復した者の多くが、その後、オミクロンに曝露した時に発症している。)

コロナウイルスのような急性自己限定性ウイルスの感染が引き起こす疾患に対する、長期間の大規模な免疫防御の起源をT細胞性免疫に求めるのなら、宿主のMHCハプロタイプに関係なく、すべての抗原性変異株に対して細胞傷害能力を備えた交差反応性記憶T細胞でなければならない。自然増殖性感染によって誘導されたか、ワクチン接種によって誘導されたかに関わらず、MHC非拘束性T細胞は、SARS-CoV-2に最初に(再)暴露された時点から、COVID-19(重症疾患だけでなく)を永続的に予防することが期待される。上述したように、これは、COVID-19から回復した非接種者や、COVID-19ワクチン接種者のいずれもが、有症状でブレークスルー感染していることと矛盾する。疾患からの回復に関与しているのが細胞傷害性記憶T細胞であるのなら、オミクロンや初期のオミクロン子孫変異株に対するワクチン・ブレークスルー感染がもたらす発症防御が短期間しか持続しなかった理由が説明できない。

もし、そのような交差反応性記憶T細胞が免疫逃避パンデミックの進化の過程で生み出されたのであるなら、少なくとも、感染やワクチンによってプライミングされるT細胞性免疫に関する数えきれないほど多くの論文の中に、自然感染、もしくは、COVID-19ワクチン接種によってそのような細胞が誘導できるという何らかの証拠が見つかるはずである。しかし、そのような証拠は見出せない。


TrialSite Newsに掲載された最近の論考で、ワクチンによってプライミングされたスパイクタンパク質特異的CD8+記憶T細胞がウイルスを効果的に除去しているという証拠が今のところ全く存在しない理由を説明した。反対に、 COVID-19患者やSARS-CoV-2に暴露されていない人(いわゆる “パンデミック前 “のサンプル)から採取された血液は、CD8+記憶T細胞ではなく、多様なTCRαβレパートリーを持つ免疫学的にナイーブなCD8+T細胞が多数を占めているという説得力のある報告ならある(文献)。記憶マーカーがないことからも、季節性ヒトコロナウイルスによる交差反応性免疫プライミングが過去になかったことがわかる。ゲノムワイド・エピトープ・スクリーニング技術を用いた他の研究でも、SARS-CoV-2を標的とするCTL(細胞傷害性Tリンパ球)によって惹起される広範な反応性免疫応答は、風土病コロナウイルスに対する既存の免疫ではあまり形成されないことが示されている (Ferretti et al., 2020; Schulienetal.,2020)。これらのT細胞は、ウイルスタンパク質内で構成される高度に保存されたプロミスキュアス(promiscuous, 著者注:すなわち、MHCクラスI分子とのアビディティが高い [1] )ペプチドエピトープを認識することが示されており (Vanden Bossche, 2023), ウイルス負荷量(すなわち抗原量)によっては、ユニバーサル(すなわちMHC非拘束性)CTLペプチドとして機能することさえある。急性有症状感染ではウイルス負荷量が高いことを考えれば、このような主要エピトープによる強い免疫刺激によって、CD8+T細胞の広範で多様なレパートリーのMHC非拘束性の細胞溶解性の活性化が(プライミングなしで!)可能になると考えるのは妥当である。 これは、KoutsakosらNguyenらによる観察と完全に一致する。これまでの研究で、広範な細胞傷害性分子を発現するこのような活性化CD8+T細胞が、回復前の患者の血液中に出現することが報告されていることから(Koutsakos et al., 2021; Thevarajan et al., 2020)、CD8+T細胞が有症状のSARS-CoV-2感染からの回復に関与していることが示唆されている。

Nguyenらは、COVID-19患者(COVID-19の急性期および回復期)だけでなく、未曝露のパンデミック前の血液サンプルでも、これらのユニバーサルな、免疫学的にナイーブなCD8+T細胞の前駆体頻度が増加していることを報告した。パンデミック前の血液サンプルに高頻度で存在したナイーブ前駆細胞が、COVID-19患者の急性期および回復期における、高度に免疫優勢なMHC非拘束性CTL応答の基盤となっている可能性があり、それが上気道での迅速なウイルス排除をもたらしていると考えられる。


結論として、SARS-CoV-2関連タンパク質内に構成された、ユニバーサルでプロミスキュアスなMHCクラスI拘束性エピトープを認識するCTL(細胞傷害性Tリンパ球)に関するすべての解析は、ユニバーサルなウイルスエピトープによる刺激が、広範で多様なスペクトルの抗原未経験の(antigen-naïve)CTLを高頻度に活性化する可能性があることを強く示唆している。これらのCTLは、同様のユニバーサルペプチド(つまり、十分なアミノ酸相同性がある)からなる、他の病原体に感染した宿主細胞を殺傷する能力を有すると考えるのが妥当であろう。以前に抗原を介した活性化があったにもかかわらず、これらのCTLは免疫学的にナイーブな表現型を維持していると考えられる。言い換えれば、これらのT細胞は以前に遭遇した病原体に対する経験を隠すことができる。記憶マーカーを持たないため、これらのCTLはペプチド刺激に反応しない。


最後に、最近発表されたオミクロン子孫株のMHCクラスI拘束性T細胞エピトープの進化的変化は、ウイルス制御にT細胞が関与していることの証拠にはならないAgerer, B., 2021Dolton, G., 2022)。進化は必ずしも自然選択によってもたらされるとは限らず、非選択的適応進化や確率的共進化によってもたらされることもあるからである(Kull, K., 2000)。これは例えば、特定の遺伝子型間の再生産価値に差を生じさせることなく、集団がある状況に特異的に適応する場合に起こる。SARS-CoV-2の場合、確率的な遺伝的差異が生じるのは、免疫選択圧力にさらされていないウイルスゲノム領域の遺伝子型の自然選択においてであると容易に想像できる。循環している変異株間の免疫遺伝学的差異がすべて免疫学的自然選択によるものであり、したがって免疫逃避を反映していると結論づけるべきではない。

特定の異なる免疫遺伝形質が、単に他の形質の選択的適応進化と共進化したのか、それとも単独で選択的進化を遂げたのかを調べるには、いくつかの実験的研究が必要だろう。免疫遺伝学的形質が、対応する変異株間の再生産価値の系統的差異と明確に関連づけられる場合にのみ、免疫選択圧力の結果であると結論づけることができる。SARS-CoV-2由来のMHCクラスⅠまたはクラスⅡエピトープに関する限り、これらのエピトープが集団レベルの免疫選択圧力を受けていることを示唆する免疫学的証拠や免疫病原性メカニズムはない。


まとめると、ヒトコロナウイルス特異的CD8+T細胞の表現型解析の結果は、ナイーブな表現型の発現を認めず、過去のヒトコロナウイルスに対する感染で誘導されたT細胞は抗原を経験しており、したがって、様々なSARS-CoV-2変異株に対し防御能力を持つユニバーサルCTLには該当しないことを示している。ワクチンによって誘導された抗原特異的CD8+T細胞も同様であり、必然的に免疫学的記憶を備えている。

他方、CTL前駆細胞が持続的に病原体非特異的に活性化されることにより(これはマスク着用によって防げられる!)、このタイプの細胞の頻度/優位性が高まり、SARS-CoV-2に暴露された際のウイルス排除が促進される可能性が高い。これは、これらのT細胞がN(atural)K(iller)-CTLで あるという私の考えと一致する。NK-CTLはMHCクラスI非拘束性T細胞で、NK細胞のような活性を示し、自己細胞を回避しながら広範なアロ反応性(同種反応性)を示す。NK-CTLの適応的記憶は抗原未経験(antigen-naïve)であり、MHCクラスIに関連し、高度に保存された(すなわち「ユニバーサル」な)病原体関連ウイルスペプチドを発現する感染細胞によってのみ活性化されると考えられている。同様のユニバーサルペプチド配列に依存して刺激される通常のNK細胞と同じく、NK-CTLはエピジェネティックな刷り込みによって迅速に適応し、自然免疫記憶を獲得することができる。「自然免疫訓練」と呼ばれる現象である。訓練された細胞性自然免疫は、ワクチン非接種者における、SARS-CoV感染の防止や、COVID-19疾患の軽減に関与していると考えられている(Vanden Bossche 著: 回避不能な免疫逃避パンデミック、3.3章)。


COVID-19ワクチン接種は、接種後の曝露における細胞性自然免疫系の訓練を妨げたり、無効化したりする(Vanden Bossche 著: 回避不能な免疫逃避パンデミック;第1章および第8章)。さらに、接種者の(重症)COVID-19疾患に対する防御を持続させている免疫応答は、記憶T細胞に基づくものではありえない。従って、COVID-19ワクチン接種者において、現在観察されている防御は、永続するものにはなりえないと結論するのが妥当である。全く同じ理由から、更新されたCOVID-19ワクチンはこの問題を解決することはできない。
人々に、過去のコロナウイルス感染やCOVID-19ワクチン接種による獲得免疫のプライミングによって病気から身を守ることができると信じ込ませている人々には、このトピックに関連する文献をもっとよく読み、よく勉強することを勧める。


訳者より:
[1] promiscuous (T cell) peptide epitope: 異なるHLAクラスⅠ分子に結合できるエピトープ
[2]antigen-naïve について、抗原刺激を受けていないphenpotypeを維持している、と捉えています。

ご指摘ありましたら、ご教示いただけるとありがたいです。

参考

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/25785826.2019.1698261


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