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あなたとともに

生まれ育った土地がある。

そこは広くて、緑色が多くて、たまに電車が走る。
車もたくさん走っている。獣も時々。
幼い頃から自我が確立されるまで、そこで過ごした。

私の1年は季節と共にあった。
春はつくしを探して、近所を練り歩いた。
夏は窓を開けて、風と雲の音を聞きながら昼寝をした。
秋は落ち葉を踏んで、小さな音楽祭を開いた。
冬は星空を眺めながら、眠りについた。

もちろん大都会に比べたら、手に入るものは少なかった。
テレビに映る食べ物は全部夢のようで、歩いて買い物なんて行けなくて。
なんなら見れるテレビも限られていた。
今の何倍も不便な生活だった。
そんな場所を心底愛していたのかと聞かれたら、うまく答えられないと思う。たぶんだけど。

私はあの土地に帰ることはないんだろうなと、成人してから薄々感じていた。
インターネットが発展して、世の中は選択肢で溢れていると学んだ。
大都会に来てから、便利なもので溢れていると知った。
そして私は、より選択が多い世界を望んだ。より便利な生活を求めた。
だけど時々、昔のことを思い出す。

みんな、知ってる?
採取したつくしは、食べるんだよ。
雲が流れる音、聞いたことある?
落ち葉を踏むと笑顔になれるの。
星ってひとつひとつ輝きが違うの。
ひとつひとつ、どれも美しい思い出だ。
この喜びを、私はいつの日か忘れる。
忘れてしまって、あの場所で過ごした時間の割合も減っていく。
そして大人になる。

だけど、不意に思い出すのだろう。

そして不便と共に成長したあの日々を、愛したい。


生まれ故郷へ
また会いに行きますね。

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