見出し画像

『AA 50年後のアルバート・アイラー』を読んだ。

アイラーをはじめフリージャズや前衛音楽など言葉を介さない音楽ジャンルを聴く上でつきまとう”考えるな感じろ”的な雰囲気。それは本書の後藤雅洋さん、村井康司さん、柳樂光隆さん鼎談でも触れたれているように、観念的に語られすぎてきた功罪でもある。本書はそれらを否定するかのように、ジャズという枠組みや国籍を越えてワールド、ヒップホップなど交流がなさそうに見える音楽ジャンルや、小説、映画、ジェンダーやBLMなど様々な視点からアイラーを考察し、縦横の繋がり見出だしパースを描き視点を提供していて、今までにないアイラーをはじめフリージャズを考える本となっている。と同時にフリージャズへの入門書としても最良の書籍になっていると思う。アイラーどころかジャズを一度も聴いたことがない人でも、興味のある章から読み進めるられる。分厚さに反して、読んでいる質感は思っていたよりもソフトだ。それだけ広く門戸が開かれている。

編者の細田成嗣さんも、カンパニー社(p-minor)の工藤遥さんも、フリーや前衛音楽について語らせれば(少なくとも同世代の中では)業界随一なはずであって、泣く子も黙る超マニアックで奇矯な、泥沼への水先案内人にもなりえたはずだが、本書では巻末のレコード判別ガイドを除いて載っていない。それは、上記のようない視野の広さを追って前衛音楽への取り入りづらさを払拭したいという想いの表れでもあるように思えた。

同時に、アイラーやフリージャズに対して広く門戸が開かれていると言うことは、アイラーを介して他の芸術/文化/学問への入門になっているということでもあり、本書のもう一つの魅力になっている。前衛から前衛へと深みにはまってゆくのではなく、今まで興味のなかったジャンルへの始めの一歩になるはずだ。
個人的には、大友良英さんに対するインタビューで、アイラーの歌心のあるメロディアスなサックス/作曲から、歌の持つ危険性へと迫る論述には震えた。
http://companysha.com/aa

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?