エロがき

その町には近くの米軍キャンプから兵隊がやってきました。目的は川沿いにある遊郭です。

遊郭は、小さな町には不似合いな大きな木造二階建でした。この町の遊郭は江戸の昔からあり、その町から遠くに望める霊峰に参拝した男衆が参拝ついでに遊んでいったといいます。芸者が音曲を奏で舞い、夏になると川に小舟を浮かべ、涼みながら酒肴を楽しんだのでしょう。

その遊郭には狭いながら風情のある庭があり、大きな木が何本かありました。
子供心に遊郭で行われていることに興味があって、誰が言い出したのか、悪ガキたちは庭の木に上って、遊郭を覗くことを決行したのです。

登りやすい木を選んで登り遊郭の2階を覗くと、ガラス戸の向こうには廊下が見えました。廊下の向こうは障子戸があって残念ながら中の様子はわかりません。
諦めて木から降りたのですが、一人が庭にドンと音を立てて墜落した。つかんでいた枝が折れたのです。庭の木戸が開いて、おばさんが「このエロがき!」と声を荒げた。悪ガキは一目散に逃げました。

翌々日、木から墜落した子が腕を石膏で固めた包帯を巻いて現れたのです。肩から吊ってました。骨折して整骨医に行ったといいます。
真っ白だった包帯に汚れが目立つようになると、その子は「痒い痒い」といって石膏の上を叩いてましたが、おそらく効果はなかったと思います。
数日して石膏の包帯は取れました。
石膏をはがすとき、怖くて小便漏らした、と言ってました。チェーンソーのような機械で石膏を切ったらしい。遊郭覗きは、一回限りの冒険でした。


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