ノーベル平和賞選出の難しさ

安倍総理がトランプ大統領をノーベル平和賞に推薦した事に関して、トランプ大統領側から安倍総理に依頼していた事が判明した。
https://www.asahi.com/articles/ASM2J6V31M2JUTFK00J.html

ノーベル賞は自薦他薦を問わないから、とりわけトランプ大統領の行為が違法というわけではない。もっとも、いくら最重要同盟国の大統領から依頼されたとは言え、果たして推薦する働きをしたか疑わしい人物を安易に推薦してしまう安倍首相の行動に疑問を感じる。

他のノーベル賞と違い、平和賞の選出は難しい側面がある。例えば、医学生物学であれば過去に実証され成果を上げた功績を選べば良いが、平和賞の場合は受賞者が心変わりする可能性や、受賞者の思惑とはかけ離れた目的地にたどり着いてしまう恐れを否定できない。

オバマ前アメリカ大統領のノーベル平和賞受賞(2009)を一例に挙げてみる。大統領に就任したのは受賞した年の1月で、就任演説で高らかに謳われた「核無き世界」に対するノーベル賞選考委員会からの、ひいては世界各国からの大いなる希望や期待に依るものと推測される。
ノーベル賞の選考過程については原則50年間非公開とされるため、誰がオバマ前大統領を推薦し、委員会が何をもって選出に至ったかが公開されるのは2059年になる。

オバマ前大統領の場合、高い理念に基づき述べた核廃絶への決意こそ多くの人間の心を震わせたが、2017年1月に退任するまでの2期8年間では核廃絶はおろか、国際平和に寄与することはほとんどできなかった。
特に、ブッシュ(子)政権時代に急速に悪化したロシア関係をゼロにする目論みは、2014年に勃発したクリミア半島危機を発端に友好どころかさらに激しく敵対するに至った。また、シリア内戦についてもアサド政権の独裁を止めるどころか内戦を悪化させてしまった。

上記の対外政策の失敗は2010年の中間選挙で民主党が歴史的な大敗した事で、オバマ大統領の政策を実行するための法案がことごとく議会でリジェクトされた事に起因する。言うに及ばすオバマ氏の政策が多くのアメリカ国民から否定された結果である。
政権末期の2016年には多くのメディアから「アメリカ大統領史上最も実績を残せなかった大統領」という不名誉な評価がなされた。

とは言え、クリミア半島危機にせよシリア内戦にせよ、2009年の選考過程の段階で発生すると予想する事は出来ない。中間選挙での大敗もふくめ、研究者であればかなり早い段階から予測できた可能性はあっても、それをノーベル賞選考委員会に求めるのは酷である。未来を正確に予測できる人間などいない。

ノーベル平和賞の受賞者は今年も意外な人物が選ばれるだろう。そして、選出者が選考委員会の期待や世界各国からの思惑とは異なる未来に向かう可能性は否定できない。しかし、たとえ希望を裏切られても「世の中思い通りには進まない」という古代より言い伝えられる真実の下では、さもありなんと考えて日常に戻るしかあるまい。

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