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検事と人事ー検察庁法改正問題の背景

「役人」をやったことがある人は、日本国民の中では一部だろう。役人にもいろいろあるが、一般的に「高級官僚」と言われる公務員をやったことがある人はさらに限定される。そういう高級官僚の中に検事もいる。検事も役人の一種である。

役人にとって、人事は極めて重大な関心時になる。日の当たるコースを歩みたい、冷飯を食いたくない、最終的に、できるだけ高い地位に到達して、その後の人生も、そういうキャリアを生かして有利に進めたい、そういう発想を持つのが普通である(もちろん、例外はあるが多くはない)。

検事の場合、任官した後、数年は、地検の捜査、公判の現場で、横並びで働くが、その後、将来を見込まれ留学したり法務省勤務になる者、捜査、公判の現場、特に特捜部で活躍して評価を上げる者、といった人々も出てくる。遅咲きで、任官後、10年余りを経過したあたりから評価が上がってくる人もいる。

そうして、10年、20年経過し、任官後25年くらいすると、地方の検事正になる人も出てくる。検事正になれない人ももちろんいる。検事正になれない人は、地検、高検の支部長あたりで退職、というパターンが多い。

法務省勤務歴が長くなっているようなエリート、捜査、公判で名を上げた人、そういう人々が、今度は「認証官」に足がかかってくる。認証官は、天皇の認証を経て内閣が任命するもので、検察庁では、検事総長、次長検事、全国8つの高検の検事長の、合計10名しかいない。ここまで到達するのは、同期任官者(自分の場合は51名だったが最近は80名くらいになっている)の中でも1、2名程度しかいない。

従来は、人事の中で、将来の検事総長になり得る人物は徐々に絞られていき、検察の世界でも序列(修習期)が重視されるから、そういう絞り込まれた人物が、期の上から順々に検事総長になってきた。そういう人事が良いかどうかは議論があるが、少なくとも、政治からの介入を、人事上は跳ね返せるというメリットはあっただろう。政治から、絞り込まれた人物以外の別の人物を検事総長に、と望みたくても、形成されてきたバランスを失することになるし、過去に、そういう動きがなかったわけではないが、検察組織の結束もあって跳ね返してきた経緯がある。

現在、問題になっている検察庁法改正で、認証官の定年延長が内閣の判断で行えるようになれば、政治の側から、この人物を検事総長に、と望んだ場合、定年延長してプールしておき(黒川氏のように)、検事総長人事の際に、その人物を任命するということが、従来より格段にやりやすくなるだろう。従来は、絞り込まれてきた検事総長候補以外に、修習期上、バランスを失せずに代わりえる人物はなかなか見出し難かった。それが、自由自在に定年延長ができることで、政権の目に叶った人物を一定数、プールできることになる。

そういう人事の在り方は、法務・検察組織に変容を来す可能性も大きい。従来は、政治とは一定の距離を置こうという傾向が強かったが、例えば、法務省勤務の際に、政治力を利用する思惑で、政治家と親交を取り結び、何かと政治へサービスする「黒川的」な人物が、組織内にウイルスのように蔓延していくというのは、単なる杞憂ではなく大いにあり得ることである。組織のあちこちに、黒川2世、黒川3世、ミニ黒川、クローン黒川が巣食うようになり、そういう者たちが要領よく出世して認証官に到達して、定年延長を噛ませながら、政治からお座敷がかかるのを待つという、なんとも背筋が寒くなるようなことが十分に起きてくるだろう。

認証官になると、年収は2200万円から2300万円くらいになる。定年延長してもらえば、そういう高給も延長される。政治の侍女化した人物が、定年延長で甘い汁も吸わせてもらい、検事総長にでもなった時、どういう検事総長になるか、これ以上言うまでもないだろう。

おそらく、現政権は、内閣人事局が中央省庁幹部人事を牛耳ることで、人事を通じて役人をコントールする旨みを知ったのだろう。検事も所詮は役人、人事を通じてコントロールできると。あの田中角栄すら手を突っ込もうとしなかった領域に、手が突っ込もうとされようとしているところに、この問題の特異性がある。そして、その背景には、役人にとっての人事という問題がある。

                                   以上



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広島県生。修道→早大法1987卒。1986司法試験合格(22歳)。1989検事。東京地検公安部でオウム真理教事件も捜査。2000退官→弁護士。Yahoo!Japan→独立。検察小説「ニチョウ」作者。お問い合わせ http://bit.do/yojiochiai

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