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『中宮の把握と中軸の重要性』リンヤンコラム三月号の日本語訳

 2023年3月16日の『東方新聞』に掲載されたリンヤンコラムの文章を日本語に訳しました。

 書道には「中宮を把握する」という考え方があります。
 中宮は、一般に字の中心を指します。それは時に左右に、あるいは上下に偏ります。ただし、それを字の重心にすることができれば、安定を保てます。中宮を把握すれば、すべての字が目に見えて均衡がとれてきます。
 それはちょうど、踊っている人の身体がどんなにばらばらに動いていても、重心が安定しているのと同じです。このように多様性と平衡性が結びついてはじめて、より調和がとれてきます。それは人間の体幹と同じです。だから中宮は、字の外側よりしっかり把握する必要があるのです。

 武術は、身体を三つに分けますが、腰と股が中節に当たります。あらゆる型の変化、力を出す、力を入れる、それを司るのは腰です。身体の善し悪しは、主に腰にあります。だから腰は身体の要なのです(王敷先生の著書『尹氏八卦掌』によります)。

 八卦掌の学習は、中心軸を鍛錬することから始まります。八卦掌がその他の拳法と違う最大の特徴は、「走圏」と呼ばれる訓練にあります。下半身の脚は前に向かって歩き、上半身の両腕は体の側面に向きます。相反する力を使う姿勢を保ちながら、円を描いて歩く運動を続けます。それはこの運動によって、頭のてっぺんから尾骶骨に至る中心軸にねじりを加えるためです。その目的は腰の力を強化することにあります。

 一幅の優秀な書道作品には、どの行の文字もすべて中心軸を保っています。前にも述べましたが、すべての文字の構造には九宮があり、その中心部分を中宮といいます。それぞれの筆画ごとに中段があります。書かれた文字に、どのようにして力を持たせるか。それは中段で力を発揮することです。上げる・抑えるという筆画の小さな動きは、中段で力を発揮するためです。つまり「固く結びつけば散漫にならない」「元気があれば立て直すことができる」ということです。

 中軸と中心の重要性は、八卦掌や書道など中国の伝統文化に体現されているだけでなく、世界各地の文化とも共通する美的要素です。「静」では日本の茶道や座禅があり、「動」では西洋のバレエ、アイルランドのタップダンス、さらにはスペインのフラメンコなどがありますが、その中で「中宮を把握する」ことを強調しないものが、一つでもあるでしょうか?それは人類共通の自然原理だからです。ちょうど地球の自転と公転と同じで、中心(核心)を把握してはじめて、自在に力の出し入れができるようになります。そして対比とコントラスト、平衡と協調など様々のレベルの美を実現できます。

 現代日本の教育学者・斎藤孝先生はいいます、「現代人は中心の感覚を失ってしまった」と。「自己の中心感覚を十分感じ取れる人が、以前よりはるかに少なくなっています。」
 心と体はつながっています。心が動揺して不安定な原因の一つは、体の不安定から来ています。体が正しければ心も正しく、そこではじめて言葉が正しく、行いも正しくなるのです。

 私が初めて八卦掌を学んだ時、先生がいつも言われたことがあります。「武術を学ぶことは人としてのあり方を学ぶことだ。正しい人間になるためには身体を正しくしなければいけない」鍛錬すると、身体には軸が必要になります。軸ができてはじめて気骨を支え、強い腰を作ることができます。

 最近中国のドラマの中で、若い俳優たちの姿勢が話題になっています。肩を曲げ、背中が丸く、首を前に傾け、左右に揺れながら歩き、何かフワフワで芯が感じられない。これではどんな豪華な衣装を着ても、中身の薄っぺらさを覆い隠すことができません。

 「世界はまさに平面化しつつある」(トーマス・フリードマン著『フラット化する世界』)中心軸は縦方向のものです。この世界が必要としているのは、まさにこの縦の軸なのです。それは深さを代表するものであり、一代また一代と伝承し、継続していかなければならないものです。

 「重い任務を負い、遠い道を行く時、公正剛直で確固たるものは、軸である」(『列女伝』「母儀」)

元中国語記事

これをキーワードで一水空の朝練Youtubeで話しました。

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