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『回响』 中国ドラマ 鑑賞記録

回响
エコー
配信 2023年3月16日 爱奇艺
全13話

トップ画像 回响 微博


愛奇芸の『迷霧劇場』現時点最新作。直前の『平原上的摩西』は見逃してしまったけど、このシリーズは好みの良作が多いので視聴しました。AI日本語字幕+耳から中文のハイブリッド視聴。

会話中心の心理描写、独特の息詰まるような展開は評価が分かれるところかもしれませんが、刑事ものや小説好きのわたしにはかなり面白かったです。

13話と短いのでこれから視聴予定の方は読まずに観た方が楽しめるのではないかと思います。
でも、ネタバレはしてないのでよかったらお付き合いくださいね!




クライムサスペンスの体の人間ドラマ

革ジャンやコート姿がめちゃカッコいい女性刑事 冉队こと冉咚咚。演じるのは宋佳。その夫 慕达夫、演じるのは王阳
この二人を中心に話が展開する。

とある殺人事件。被害者は若い女性、夏冰清
彼女が殺害される直前にいたホテルラウンジの映像を冉咚咚らが調べると、何とそこに夫の慕达夫がいたことが判明する。
愕然とする冉咚咚。彼は事件に絡んでいるのか?!

徐々に被害者の背景と事件の詳細が解き明かされていく。夏冰清の両親、愛人や友人など、訳アリな面々。
聴き取り調査や取り調べでは、誰もが隠し事を持ち、嘘をつく
夫も頑なに秘密を隠す。

台詞にムダがなく、ストーリー展開には隙がない。綿密に描かれる心理描写とサスペンスがガッチリ共存していて、非常にスリリングだ。


夫に疑いの目を向ける冉咚咚 回响 微博


ドラマのタイトル「回响」はエコーという意味。内と外、夫と妻、母と母、それぞれ二つの物事や人間関係の双方が影響し「エコー」となって互いの心理に響き合う
水面に石が投げ込まれて広がる波紋を見るような、不思議な面白さが感じられるドラマだ。



外では刑事、家では妻、母

わたしが一番共感したのは主人公のこの側面かもしれない。
殺人事件の捜査という公的な責任と、夫婦の危機という私的な難題を同時に解決しなければならない主人公、冉咚咚。

容疑者が皆ウソつくし夫も頑な態度を崩さない。
職業柄、物事を疑ってかかる習性の上にウソを見抜くことに長けた咚咚。夫の浮気疑惑への追求が、仕事のストレスも加わって過剰となってしまう。だが刑事であっても人間。そして女性なのだ。

仮に男女が逆転していて夫が刑事なら、このドラマの状況下では多少冷静さを欠いて妻を問い詰めたとしても世間は許す気がする。
それが女性だと、過激だ、感情的だと風当りが強くなるの何故なのか。
男性は外での仕事がメイン、女性は内での役割がメイン、のような女性に対する固定観念があると仮定すれば、その視点のバイアスを推理のトリックとして仕掛けてあるのでは?とすら思えてしまった。

家でも外でも、常に完璧を求められてしまう空気。
刑事としても有能で、家庭でも良き妻、良き母。
逆に男性でそんな人がいたらむしろ絶賛されるところだろうなと思うと、冉咚咚の心の葛藤が痛々しかった。
それを見事に表現していた宋佳の演技も素晴らしかった。


制服姿も凛々しい 回响 微博



母ごころ

これも本作の見どころの一つだと思う。
冉咚咚の母としての心情に絡めたシーンも多く描かれる。
圧巻だったのは、容疑者の母の母ごころが冉咚咚の子への想いに共鳴して響く場面。
相手の言葉が彼女の心の中に波紋のようにエコーしていく様がはっきり目に見えるような演出に、思わず涙してしまった。

正しいのは、病んでいるのは、嘘をついてるのは、どちらなのか。
視点や語り手次第で物事は正反対に見えてしまうということを証明しているようなドラマだ。
全てが不確かな中で、子供の語るお伽話が核心を突いていて背筋が寒い。


妻も夫も子供への想いは絶対的だ 回响 微博


小説ネタ

登場人物が作家や評論家など文学関係が多いため、随所で小説がネタになっているのも興味深かった。中国でも同じような本を読んでるのね、と当たり前のことに感動しつつ(笑)
文学が専門の大学教授 慕达夫の愛読書は『ドクトル・ジバゴ』。カポーティーの『冷血』や『紅楼夢』『赤と黒』等の他、映画『ゴースト・ニューヨークの幻』なんかも会話の端々に出てくる。

含みのある台詞には文学的味わいがあり洒落ている。
考えさせられる一言も多かった。


慕达夫の愛人?な彼女も小説家 回响 微博


正義

夫婦間のもつれや母の愛、登場人物それぞれの心理を抉り出すのは絶対的な正義の擁護者、冉咚咚。彼女は自分にも容赦ないが、その分だけ警察官としての信頼感はバッチリだ。

そんな彼女の口癖はこれ。

我们不会冤枉一个好人
也不会放过一个坏人
尤其不会冤枉好人

私たちは善人を捕まえることはない
悪人を野放しにもしない
ましてや善人に罪を着せることもない

らん訳


殺人の請負いは人から人へ他人任せにされ、具体的な指示も示されぬまま報酬金額は人づてに減ってゆき、最後には1万块(約19万円)にも下がってしまうという悲哀…

みっしりギュギューっと詰まった無駄のないストーリー展開が秀逸であった。
心理的トリックが重層的、かつ複合的に仕掛けられており、他のドラマとは一風変わった異色の視点で描かれているサスペンス。とても新鮮味があり面白かった。

その他見所としては、脇役やカメオでいい俳優さんが出演しているのもお得感あり。
卿卿日常や贅婿の 刘冠麟
小説家 贝贞に如懿传の 董洁
冉咚咚とコンビを組む刑事 邵天伟役の 侯雯元は寡黙ながらいい演技!!

一瞬しか出てこないが存在感たっぷりな 黄轩、軽みの演技が流石であった。
もちろん主役二人も素晴らしく、ほとんどノーメークで体当たり演技の宋佳。
妻に隠し事をしている気の小さめな男 慕达夫を好演していた王阳は、アップになるたびにハンサムだわーと見惚れてしまった(笑)



黄轩🧡 回响 微博


最終話配信5日後に開催された『微博の夜』祭典で同席したお二人
メイクきめてると印象が全然違う! 宋佳 微博





これだけずっしり重厚感ある見応えなのに、たったの13話だったことが観終わって意外な驚きでした。
日本の連ドラと変わらない話数。13話でもこれだけ描き切れるのだなーと感心するばかり。
話を掘り下げられないのを、日本も長さのせいにはできないですね。

SNSで目にした限り、好き嫌いがかなり分かれる作品のようでした。家庭という閉鎖的空間でやり取りされる夫婦間の応酬は確かに息詰まるものがありましたが、それを上回る魅力をわたしは感じました。
…確かに、何度でも観たい、とは思いませんが(笑)