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恋のラストタンダ

去年タンゴを通じて知り合い、今年初めに2ヶ月ほどお付き合いした方がいました。
遠距離になってからとにかく連絡が付きづらくなって、週末は向こうは遊びに行きたいから連絡できない(メッセージもあんまり見たくないそう)、平日ようやくビデオチャットできたと思えば、向こうは作業しながらで話を聞いていない…
黙っていると、もう話すことないなら切るよ?と言われる。

そんな人生最悪の恋愛経験をして、2ヶ月で冷めたのか、そもそも遠距離前に遊びたかっただけなのか、分からないけれど、メッセージでお別れを告げ、1週間経っても返信がないのでブロックしたお相手がいました。

あれから半年、国内にいないはずだったのに…
戻ってきたらしく、昨日、ミロンガに行ったら居ました。

しばらく相手の様子を観察していると、私の存在には気づいているよう。
でも何となく、私の視線は避けている気がする。

別れてからたくさん泣いて(私はすごく真剣にお付き合いしたかったから)、いつか会ったら何を言ってやろうかと考えて…
気づいたらツカツカと彼の所に行き、隣に腰を下ろしていました。

「久しぶり、何か私に言うことある?」
「久しぶり…最近、どう」
彼の方は世間話に徹したい模様。
話は永遠に平行線だろうと思い、ふと、全ての言葉にできなかった思いもタンゴに込めたい。そして最後にしようと思ったのでした。

「1タンダ、踊って?」
ミロンガで直接誘うという禁じ手をあえて使う。カベセオしてたらこの人はたぶん絶対捕まらない。
彼が頷くと、次のタンダは何とあろうことかPugliese、こんなに別れに相応しいタンダがあるだろうか。
でも彼は(少なくとも私が知っていた頃は)Puglieseのタンダを滅多に踊らない人でした。

彼は音楽を聞いてもう一度確かめるように私に向かって頷き、2人でダンスフロアにおりました。

上半身は優しくアブラッソを組むも、ステップは自分でもびっくりする位、足元に力がこもっていて、ヒーロもピボットも、彼のリードに従いつつ、全てのステップに自分の強い意志を込めて、丁寧に踊りました。
楽しかった思い出と、傷ついた心と、音楽に合わせてアブラッソを変えながら、全部をぶつけて。

おかげでたった一曲でお互い汗だくになったけど、曲と曲の間も、無言で4曲踊り続けました。
明らかに周りからの視線も感じました…そりゃそうだ。私があんな風に踊ることは今までなかったはずだから。
(そして誰も、私と彼の間にあったことは知らない訳だから…)


最後の曲が終わり、
「最後に言いたいのは、あなたのことはブロックしたから今後連絡を取ることは一切ないけど、さっきのタンダは最高だった」
そう言い残して自分の席に戻りました。
踊っている時に気付いたけど、もう未練はなかったんです。ぶつけた感情は全て過去のもの、でもこういう最後を迎えられて良かった。

タンゴに始まりタンゴに終わった恋。
自分で言うのも何だけど、こんなドラマチックな体験が出来て、アルゼンチンタンゴをやっていて良かったです。

(ちなみにこの方の前に2年近くお付き合いした方もタンゴ仲間ですが、こちらは今でも普通に友達で、ミロンガで会えば楽しく踊っています。
毎回こんな出会いと別ればかりではないです。)

#アルゼンチンタンゴ #恋

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