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Ground Control To "Major Tom"

2022/7/7の天気は生憎の曇りだが雲の向こうは月蝕らしい。曇った闇夜を見上ながら、たったひとりで遠く火星に飛び立っていったトーマス少佐のことを思い浮かべていた。

打ち上げからはや半年。地上の管制官から届く電波が次第に途切れ途切れになる中、トーマス少佐は目的地に向かって孤独な旅を続けます。

やがて、通信は途絶えがちになり、ついにはトーマス少佐から発信する音声は一切地球に届かなくなりました。けれど、地上管制官が呼びかけてくる声だけは不思議なことにこちらトーマス少佐にはまだ届き続けています。

トーマス少佐がそれを聴いているという確証はなにもありません。ただ、一方的で、それが聞こえているのかいないのか全く定かではありませんでしたが、半年もの間、毎日交信をしていた地上管制官には、彼が自分の声を聴いていることを感覚的に感じ取ることができました。

こちら地上管制、トム少佐へ。

それでも、一縷の望みを託して管制官はメッセージを発信し続けます。地上管制はトーマス少佐からの返信を受けることは諦めたにもかかわらず、それでも、音楽好きで仕事に丁寧なトーマス少佐のために、一縷の望みを託して、ただ一方的に話しかけたり、音楽を流すだけの通信を続けるようになります。

一方的な通信。届くかどうか分からないメッセージ。

それでも管制官はトム少佐へメッセージを送り続けるのでした。


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