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”新型コロナウイルスは、少数の感染者が他の大勢への感染を引き起こしている”という内容の記事

今回は、令和2年11月7日発行のウィークリーエディションから、Graphic detail というセクションにある Power of Inequality (不平等の力)※訳は筆者ーという表題のついた記事を取り上げます。

記事タイトルは、「A minority of people with covid-19 account for the bulk of transmission」で、サブタイトルとして、「In two Indian states 10% of people caused 60% of subsequent infections

私訳ですが、「インドの2つの州では、感染した人の10%によって、続発感染の60%が引き起こされている」とでもしておきます。

これって、以前にも、何かの記事で目にしたことがあります。この記事にも出てきますが、いわゆる、スーパースプレッダー(super-spreader)と呼ばれる、他人へ感染させる力が強い人のことです。

一体、なぜ、そのような現象が起こるのでしょうか?

世界の各地で、そして日本でも、ここのところ感染拡大の第三波到来を危惧するニュースが流れています。そのような中、新型コロナウイルス感染症に関する疫学上の専門家の知見は興味がありますし、心構えておいて損はないでしょう。

また、各国政府が実施する感染症対策の参考となるだけではなく、医療の最前線で治療にあたっている現場担当者にとっても、正確な情報を掴むことは新しいタイプの感染症に対峙するためには絶対に必要でしょう。

そのようなことを考えながら、記事の内容を見てみます。今回の記事は、まず、インドの2つの州における感染事例を用い、84,965人の感染者とこれら感染者の濃厚接触者であり、後に続発性感染に至った575,071人に関しての検査結果や専門家の意見を基に構成されています。

基本再生産数(R0: Basic Reproduction Number)

記事では、まず、感染症対策の専門家が着目するR0と呼ばれる値について触れられています。R0とは、感染性:基本再生産数(R0: Basic Reproduction Number)のことで、一般社団法人日本疫学会のホームページには、

感染症が、どのように、完全に感受性である(その感染症がそれまで広まったことがない、免疫を持たないということ)人口集団において、広がっていくかについての係数であり、1人の感染者が平均して何人に直接感染するかという人数のことです。感染者ひとりが何人に感染させるか?については、感染症が拡がり、次第に人々が免疫を得始め、時間の経過とともに、完全に感受性を持つ人は減少します。結果として再生産数*は感染症の広がりとともに低下します(収束する)。※文中の太字は筆者

とあり、

R0 < 1 の場合: 感染の流行は、拡がりません(感染者ひとりがひとり未満の人数に感染させる)
R0 = 1 の場合:拡大も終息もせず、地域的に流行し続ける(ひとりの感染者がひとりに感染させる)
R0 > 1 の場合:流行の拡大(ひとりの感染者が複数に感染させる)

と続いています。ちなみに、”完全に感受性である”という表現は素人にはわかりづらいのですが、要は、「ある感染症に対して、誰も感染したことがなく、免疫もない、無垢な状態の集団」といった意味合いのようです。

私たちは、よく、「コロナが終息したら」という表現を使いますが、上の説明に従えば、疫学上は、R0 < 1にならないと終息したとは言えないことになります。

専門家が注目するパラーメーター:k(感染拡散性)

次に、疫学者がR 0と同様に注目する、感染を拡大させる強さである「感染拡散性」を表す「k」という数値についても述べられています。

このkに関連しては、

疫学者は、拡散パラメーターである「k」と呼ばれる数値を用い、一部の感染者が他に感染を拡める行為について研究を行っている。k=0の場合、続発性の感染すべての原因が一人の感染者であることを意味し、kの値が増えることは、感染者の数が増えることを表している。※訳は筆者

と記載されていますが、ここでは、法則というか公式について述べているだけで、よくわかりづらいので、もう少し読み進めてみます。

「kパラメーターは、以前はゼロに近い状態であったが、最新の調査結果によれば、最近は0.5程度になっている」

なんだか、余計にわかりにくくなりました(笑)

ともかく、原文の英語をどう訳すかということと同時に、疫学という学問上、理解が難しい点もあり、文意を正確に捉えているかあまり自信ありませんが、前後の文脈などから要点をまとめると、

・以前は、一人の特定の感染者が、大勢の人に感染させる例が多かった。(k=0に近い状態)
・最近のインドの2州での感染発生状況や世界の他の地域の集団感染事例の調査研究によると、最近は、大勢に感染させるスーパースプレッダーが増加傾向にある。(平均してk=0.5程度になっている)

最近の感染発生トレンドとkパラメーターとの関係は?

スーパースプレッダーの数が増える傾向にある、というのは何を示しているのでしょうか。しかも、"As social distancing is enacted to curb outbreaks, the dispersion parameter tends to increase."とあり、感染防止策として、最近はすっかり新たなノーマルとなった”ソーシャルディスタンス”(3密を避けた行動を取ること)の効果で感染発生が抑制されたことで、kパラメーターは増える傾向にある、と述べています。

正直、ここまで読み進めてみても、やはり(私の理解力では)感染の発生トレンドとkパラメーターの因果関係はわかりづらいのですが、大体の意味として、

マスク着用やソーシャルディスタンスなどの感染防止対策が各国の国民の間で根付きつつあることにより感染者数が抑制されている。一方で、スーパースプレッダーと呼ばれる一部の人が原因による集団感染例は増加傾向にある。特に、限られた空間での人と人との接触など、一定の環境の下では、そのような集団感染が起こりやすいので注意が必要であることを示唆する内容の文章(要約筆者)

という風にまとめておきたいと思います。

記事のまとめ

記事は最終パラグラフにおいて、

新型コロナウイルス感染は極めて閉鎖された空間で発生する。他の人への「感染」は、感染している人すべてが引き起こすわけではなく、現に、陽性が確認された感染者の71%は誰にも移すことがない。スーパースプレッダーと呼ばれる、全体の1割(10%)にあたる感染者(陽性者)によって、全体の6割(60%)への感染が引き起こされている。※文中の太字は著者 ※邦訳筆者

と伝え、

「感染のリスクは、似たような年代の人同士が生活する民間の住宅において最も高まる。このことは、これまでに発生した新型コロナウイルス感染症の1,600件の集団感染事例の調査からも裏付けられている。」※文中の太字は著者 ※邦訳筆者

と締めくくっています。

これは、。

同じ年代の人同士が、同じ屋根の下で暮らす、或いは、集うなどの人的交流を行なった場合、新型コロナウイルスの感染リスクが高まる

という意味だと思いますが、気心の知れた仲間同士で、マスクをせず、比較的長時間にわたって、密な状態で過ごすことで感染リスクは高くなる、というのと一緒ですね。関係が近い分だけ、(感染防止に関して)油断しやすいので注意してねという風に捉えておいたらいいかもしれません。もし、そのメンバーの中にスーパースプレッダーがいたら集団感染につながる恐れが大きいですから。

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