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Webとマーケティング 授業資料(7)

データを見ること

前回の、データに関する問いかけの解説です。
これからソーシャルリサーチを行って、実際の消費者のデータを求めていきます。そのための思考問題として提示したものです。

図3

①なぜ、スペイン内陸部にはネアンデルタール人がいなかったのでしょうか?
②戦闘機の帰還率を上げるためには、どこの装甲を強化するべきでしょうか?

①は、ネアンデルタール人そのものではなく、端的に言えば、そこに行って化石を発掘した研究者がいなかったということにしか過ぎません。
データが無いことに対して、現象が存在しないと解釈するのが一般的かと思います。しかし、データがあることは、あくまでも観測者がいるというのが、まず前提です。
観測されないデータは存在しないわけです。

②は、有名な話で、広く知られていると思います。
一見すると、赤で示されている部分は、被弾しているので、そこの装甲を強化する必要があるように思えます。しかしこのデータは、帰還した戦闘機のデータだということに注目すべきです。
白い部分に被弾した戦闘機は、帰還できなかったと解釈することができます。ですので、装甲する部分は、帰還した戦闘機が被弾していなかった、白い部分ということになります。あるデータがあるということは、どういう意味なのかを解釈する必要があるわけです。

実際に、マーケティングに関連して、こういう意見を聞いたことがあります。
「Aの属性を持った人たちが、Xを好む傾向がある」というデータが得られた場合、Aの人たちにXを広告、宣伝する必要がある…
しかし、Aの人たちは既にXを好んで購入しているわけですから、あえてそこに対する広告する意味は低いと思いませんか。
広告、宣伝の意義とかの問題もあると思いますが、余りにもデータの解釈としては、単純すぎる気がしています。

ソーシャルメディアを対象に、リスニングを行っていくわけです。
データの有無だけでは、判断できないということをまず指摘します。

人の繋がり

ソーシャルメディアとは、「人の繋がり」を扱うシステムと定義し、そして人の繋がりを可視化したものを、「ソーシャルグラフ」と呼ぶと説明しました。

これについて詳細に解説して行きますが、その前にまずゴールとして、課題について、再度確認しておきます。
課題②として、「人の繋がりを使ったビジネス案を考えてください」という内容を提起しました。
ここでいう、「ビジネス案」とは、使いみちのような意味です。ポイントは、「人の繋がりを使う」こと、すなわちソーシャルグラフを使ったビジネスプランです。

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そもそもソーシャルグラフとは「ネット上の人々の繋がりを表現したもの」ですが、問題は、それがどのように有効なのか、何に使えるのかです。
誰かと誰かがネット上で繋がりを持っているということを明らかにしても、得るものは余りありません。せいぜい、個人的な好奇心が満たされる程度ですし。

結論的に言えば、ソーシャルグラフの価値は、その繋がり関係を成立させている理由にあります。
人間同士に関係がある場合、そこには必ず何らかの理由があります。
それこそ偶然知り合ったとしても、偶然を生み出した理由や、関係が継続する理由が存在するはずです。
端的に言えば、ソーシャルグラフは、人々が何故関係を持っているのか、どういう関係なのか、その人間の関係を成立させている理由や内容に基づいて、繋がりを抽象化したものなのです。

ソーシャルグラフの応用可能性は、それによって生まれて来ます。
つまり、ソーシャルグラフとは「ネット上の人々の有意味な繋がりを抽象化して記述、蓄積したグラフ」と定義できます。
ここで言うグラフとは、棒グラフ、線グラフなどのグラフではなく、数学者オイラーによる「グラフ理論 (Graph Theory) 」に基づいた、ネットワークを抽象化したモデルを意味します。
これについては、改めてこの後で解説します。

ここでは、ソーシャルグラフを考える上での重要な観点に関して、2つ指摘します。

重要な視点①

前述のように、人間同士に関係がある場合、そこには必ず何らかの理由があるはずです。
以前、この授業の履修者120名ほどに、ソーシャルメディア上の繋がりについて、2つのアンケートを取りました。

①なぜその人と、友達関係が成立したのか?
②なぜその人と、友達関係であり続けているのか?

これは、ソーシャルグラフが人間関係の何を表しているのかを明らかにしようとしたものです。
その結果として、様々な回答が上がってきました。詳しくは図を見て欲しいのですが、どちらの問いに対しても、積極的な理由と消極的な理由があり、さらに積極的な理由にも、2つあるように思えます。

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例えば、①の「友達関係が成立した」理由として、共通の趣味、好きなものがあった、共通点や性格の一致という指摘がありました。これは、サイコグラフィック変数が同じということを意味しています。
疑問になるのは、なぜ「なぜそれを知ったの?」ということです。
おそらくそれは、もう一つの回答である、部活が同じだったから、同じ学校だったから、サークルやクラスが共通だから、塾が同じで友達にになった、等々、デモグラフィック変数が同じという切っ掛けがあると考えられます。
さらに、②なぜ「友達関係であり続けている」のか?に対しては、相手の性格と自分が合わない、相手のことを好きになれない、投稿が不愉快だと感じたなどがありますが、サイコグラフィック変数の内容が異なっていることを意味しています。

どうも、友達になる理由は、デモグラフィック変数が同じというところにあり、友達であり続ける理由は、サイコグラフィック変数に何らかの共通性があると仮定していいのではないでしょうか。

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SNSでは、プロフィールとして、所属や仕事など、デモグラフィック情報が書かれています。ですので、そこだけ見ればある特定の属性を持った人々をグルーピングすることができますが、さらにそこから友達関係、繋がり関係のある人を、ソーシャルグラフを使って辿ると、共通するサイコグラフィック情報を持つ人々を知ることが出来るということになります。

マーケティングの世界では、前述のように、デモグラフィック変数が同じ、すなわちサイコグラフィック変数も同じという仮定をします。しかしソーシャルグラフを使うことで、この仮定をより詳細化し、直接サイコグラフィック変数自体に着目したグルーピングをすることが出来るということを指摘しておきます。
なお、ソーシャルグラフの世界では、こうした人々のグループを「クラスター」と呼びます。感染症などでも使われるので、聞いたことがあると思いますが、ネットワークの世界では、もう少し厳密な定義がありますが、ここでは同じ属性を持っていて、ソーシャルグラフで繋がっているグループのことと捉えてください。

重要な視点②

さらに、ソーシャルグラフに対しては、もう一つ、重要な視点を提起します。
普通、その人はどういう人かを知るために、その人の属性、何をしている人なのか、どこい住んでいて、何歳なのか、どういう趣味や関心を持っているのかに着目します。それがデモグラフィック変数、サイコグラフィック変数ですね。
しかし、ソーシャルグラフのこうした性質から、新たな着目点が生まれてきました。人の個性は「属性」より「繋がり」で判断することができる、ということです。
その人がどういう人かは、その人の繋がりによってわかるということですが、その発想を利用することで、大きな成功を収めているシステムが存在しています。

お馴染みの検索システム、Googleです。
言うまでもなく、非常に精度の高い検索エンジンを提供しており、次々と関連サービスを提供しながら、IT企業の代表になっています。
その検索システムの中心となる考え方が、「ページランク・Page Rank」と言う、Webページのランキングアルゴリズムです。

Googleの検索は、Webページのコンテンツには立ち入りません。一々、コンテンツを見て検索をするならば、全世界のWebを検索対象にするために、極端な話、人間の使っている全ての言語を解析しなければならなくなります。
Googleは、コンテンツではなく、Webページのリンクに着目します。
その詳細は、Google社のページの中に詳しく解説されていますが、簡単に言えば、Webページのリンクを使って、各ページを評価しています。

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図の真ん中に示されているページ(id=1)は、多くのリンクを集めています。これは「いいページ」だと判断します。id=7とid=6のページは、リンクが少ないですが、id=7は、いいページである、id=1からのリンクをもらっています。ですのでこれも、いいページだと判断していくということになります。
ページの評価は、属性ではなく繋がりで判断されているわけです。
このページランクのアルゴリズムは、ソーシャルリサーチにも応用できます。
プロフィールが明らかな人、多くの繋がりを持っている人から繋がっている人に着目してリサーチを行うことができます。

次は、繋がりを表現するグラフの考え方について説明します。


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