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Webとマーケティング 授業資料(14)

感染症と情報

若干遠回りをしましたが、改めて、人の繋がりについて考えてみます。

「つながり-社会的ネットワークの驚くべき力-」,ニコラス・クリスタキス,講談社2010から引用した、グラフについて考えてみます。
この繋がりは、人間の関係なのですが、どういう繋がりかわかりますか?

つながり

ネットワークの特徴を指摘してみると、まずネットワークの密度が低いのがわかります。各ノードの次数が低いのに合わせて、3点間の繋がりであるクラスターが全く存在していません。そして、ノードがあるのに繋がりが無い空間が非常に目立ちます。
この隙間の空間を、社会的ネットワークの世界では、「構造的空隙(structural holes)」と言います。簡単に言えば、自分とつながっている相手同士がつながっていない場合を指します。

これは、もちろん人間の繋がりですが、そこで起こった「感染」という現象をグラフにしたものです。アメリカ中西部の中規模高校で、生徒内の性感染症が蔓延したため、感染の実態を探るために聞き取り調査をした結果だそうです。濃い点で表現されているのが男性で、薄い色の点が女性を示しています。

そのため、トライアングルになっているクラスターは、原則として存在していません。
通称感染グラフと呼ばれるこの図からわ、かることや得られるデータは多くありますが、ここではその詳細には立ち入りませんし、安易に結論を出すことはしません。

人間の相互関係としてこの図を見たいわけです。
なぜマーケティングの素材として感染症を持ってくるかと言えば、人と人の間を何かが伝わるという側面で見れば、感染症も情報の伝達も同じだからです。病原菌やウィルスを、情報に置き換えれば、感染は伝達、伝播と同じ現象だということがわかるはずです。

これは、2014年に流されたFacebookのCM映像で「あなたは誰かの友達」と題されたものです。当時の、SNS上の反応がまとまっていますが、余り好意的に受け止められたということでもないようです。

もう一本、短い広告映像を見てください。

AC(公共広告機構)の意見広告で、性感染症を取り上げたものです。なかなかに恐怖を感じさせるような、表現のスタイルも内容も違いますが、人の繋がりとその影響を取り上げたもので、実は同じものが表現の対象になっています。ソーシャルメディア上を流れる情報と感染症は、本質的に同じ現象と考えられるわけです。

さて、この相関図を見ればわかるように、人の繋がりは完全グラフにはなりません。誰もが、全ての人と接点を持っているような集団は、相当小規模で、さらにほぼ同じようなサイコグラフィック変数を持っていなければ、あり得ないでしょう。

さらにもう一つ見落としがちなのですが、このグラフに表れていない関係性も存在しているということです。このグラフのノードは、最終的には全て繋がっています。しかし、1対1でつき合っている人は、感染していないので、この相関図には現われていません。現実の人間関係では、全く誰とも接点がない人というのは、現代社会ではかなり珍しいと思いますが、これは特殊な関係性なのです。

それを前提に、この繋がりの特徴を見ていきます。

頂点数の多さに対して、一人一人の次数がかなり低く、そのためネットワークの密度は低く、完全グラフとは程遠い状態になっています。さらに相対的に次数が高い人間を中心にした、ノードの集まりが点在しているという特徴もあります。性感染症ですから、厳密なクラスターは存在していませんが、緊密な繋がりのある集団という意味でのクラスターが、いくつも含まれています。こうしたクラスターの中心になっているのが、次数の多いHubになります。人間関係で言えば、クラスターは仲間内、Hubは人気者ということになるでしょう。但し、クラスター化していない部分も多く、空隙の占める部分も多くあります。

ここで見るように、人間の繋がりは、①低いネットワーク密度と、②比較的高いクラスター係数という2つの特徴を持っています。そのため、緊密な繋がりを持った塊グループが多く存在し、さらにそれらが相互に隔絶している状態になっています。 

感染

余りいい表現だとは思えませんが、感染症の啓発ポスターも、こうした人間の繋がりの持つネットワーク上の特徴がデザインに使われています。左側は、まさにHubそのものです。人の繋がりとは、こうした特徴を持ったものだと一般に捉えられているということでしょう。

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しかしここで最も重要なことを指摘しますが、人の繋がりの特徴には、もう一つあります。それは、上のポスターにも、またクリスタキスの感染症グラフにも表現されていません。
結論的に言えば、炎上も、ソーシャルメディアの情報の拡散も、もう一つの特徴によって引き起こされます。

ここまで述べてきた、人間の繋がりが持つ特徴は、我々の直観とほぼ同じではないでしょうか。実際に、大教室の教卓から学生の着席している様子を見ると、まさにこの状態です。友達同士でまとまって座っているクラスターが目に入ります。本来なら授業時の写真を写してくるところですが、今はオンライン授業なので…。
例えば以下のブログには、大教室での授業の様子が写っています。①低いネットワーク密度と、②比較的高いクラスター係数がよくわかります。

人間の繋がりを示す特徴には、もう一つあります。
それを考えるために、一つ課題を出します。
この感染症グラフで、より効率的に伝染させるには、このネットワークのどこをどのように操作すればいいでしょうか。言い換えれば、このソーシャルグラフの中で、より効率的に情報を伝達するにはどうすればいいのでしょうか。

実際の人間のネットワークには、もう一つの特徴があります。
次回までに、そこを考えてきてください。

※Topの画像は、中村愛さんの「highway」の写真をお借りしました。お礼申し上げます。忘れてしまいがちですが、都市を繋げるハイウェイもネットワークのインフラの一つです。




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