文科系のための情報科学 授業資料(9)

情報通信と情報処理

まず前回の投げかけです、眼が四つのポスターですが、これは飲酒運転撲滅のための啓発ポスターだそうです。"don't drink drive"で検索すると、衝撃的だったり脅迫的だったりするポスターがたくさんありますが、その中でこれは異彩を放っています。
では、このポスターが何を意味しているのかわかりますか?

図3


さて、CPUの能力を合わせて、コンピュータの五大機能と呼ぶことは説明しました。
コンピュータの持つ様々な機能は、つまるとこと5つに集約されるということなのですが、図のように、人間の知的作業を行う時の能力に、しばしば例えられます。

メタファー

非常に分かりやすい例えではあり、特にコンピュータのように、モデルを通して理解する必要がある機械ではしばしば多用されますが、こうした例えは、例えられているものと例えの間の関係がしばしば混同されてしまうことが多くあります。
こうして例えることで、より明らかにイメージを抱くことは可能なのですが、重要なのは、違いを認識することです。機械は人間のようには、柔軟に処理を行ってはいません。あくまでも、例えだと思ってください。

もう一点、この5大機能の中に、私たちがコンピュータを使って行っていることのうち、重要なものが欠けているのに気づきますか?

入力、出力、記憶、制御、演算の5つですが、通信機能が含まれていないことに注意してください。
元々コンピュータは、情報処理機器と呼ばれています。通信機能を行う機器は、情報通信機器ですので、本来違う機能を持ったモノなのです。

通信とは、言うまでもなく「情報」を伝えることや技術のことです。
技術の世界では、「情報処理」と「情報通信」とははっきりと区別されます。両者の違いを、ごく簡単に説明してみます。

通信

図に示すのは、情報を扱う機器のイメージ図です。
その機器が情報処理機器であれ情報通信機器であれ、ある「情報A」がその機器によって扱われて、「情報A’」が生み出されます。つまりその機器に入力される情報を「情報A」とし、その機器から出力される情報を「情報A’」とします。

その機器が情報処理機器の場合、処理結果の「情報A’」は処理前の「情報A」よりも、何らかの意味で価値が高いものでなければ意味はありません。数学的な意味からすれば余り正確な使い方ではないのですが、感覚的に示すと以下のような式になります。
   A < A’
つまり私たちがパソコンやコンピュータを使うのは、それを使うことで得られる情報に価値があるからなのです。

例えば表計算ソフトを使って、名簿を作ったとしましょう。その名簿に対して、名前の順番に並べ替えることは容易にできます。データを並び替えることをソート(Sort)と言い、基本的かつ重要な情報処理のうちの一つです。ソート前のデータよりもソートを掛けたものの方が、明らかに利便性が高く、情報としての価値が高いのは容易に理解できると思います。

では、その機器が情報通信機器の場合はどうなるでしょうか。これは皆さんが、身近な情報通信機器の携帯電話を買う時のことを想定してみてください。
どうせならば、出来る限り音の良いものを買おうと思うはずです。音が良いと言っても、本来の自分の声よりも美声に聞こえる電話などはあり得ませんし、その必要もありません。要するに本来の自分の声が、あたかも直接会話をしているかのように伝われば十分なのです。
つまり情報通信機器に期待されるのは、通信される「情報A」と機器から出力された「情報A’」が、出来る限り等しいものであることで、それが情報通信技術の目標になります。
すなわち以下のような式で示されるのが、情報通信ということになります。
   A = A’

パソコンなどコンピュータは、情報処理機器という範疇に属します。しかし電話やFAXなどは、それとは別に情報通信機器と言われています。最近のネットワークに接続しているコンピュータは、いわばその融合なのです。

CPUの機能

さて、コンピュータの中で、演算と制御を行なう装置を、「CPU(Central Processing Unit)・中央処理装置」と呼びます。それは、五大機能のうち、演算と制御という2つの機能を扱います。

スライド228

改めて述べるまでもありませんが、数値計算は四則演算という四種類からなります。
四則演算とは、いわゆる加減乗除、足し算、引き算、掛け算、割り算のことです。掛け算は、足し算を繰り返すことによって行なうことが出来ます。
例えば「3×4」は、「3+3+3+3」となります。同じように、割り算は引き算を繰り返すことで計算することができます。
「12÷3」は「12-3-3-3-3=0」ですから、4回3が引けるため答えは4になります。こんな簡単なことは今更言うまでもありませんが、こうした計算を行なう機械を設計するには、このことは大変重要です。
なぜなら、掛け算と割り算を計算する回路は、用意する必要が無いからです。そのため、機械の構造がより単純になります。

その代わり、特定の演算を繰り返す機能が重要になります。
CPUが計算を繰り返す能力を、クロック周波数と言い「100Mhz」のように表記します。周波数とは、単位時間内に何かが繰り返される数を示すもので、「ヘルツ」と発音します。簡単に言えば、これが高いコンピュータほど、計算速度が速いということになります。それは繰り返し能力のことなのです。

さてこのように、掛け算は足し算で、割り算は引き算で計算することができますが、さらにそれを進めて、足し算で引き算をすることもできます。
原理的に言えば、コンピュータは足し算しかできないということになります。ではどうすれば、足し算を使って引き算をすることができると思いますか?
例えば「9-3=6」という計算を、足し算記号「+」を使って表すには、どうすればいいでしょうか。

画像5

前述の、掛け算を足し算でする方法は、おそらく多くの方が当たり前すぎて言われるまでも無いと思ったことでしょう。
でもこれはかなり発想の転換が必要で、すぐわかる方は少ないと思います。
簡単な算数のようなものでも、私たちは意外と見落としていることがたくさんあります。私も最初このことは気が付きませんでした。コンピュータって面白いと思った、最初の切っ掛けがこれです。

引き算を足し算で計算するには、どうしたらいいでしょうか。
考えてください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?