Webとマーケティング 授業資料(6)

ソーシャルリスニングとデータ分析

・ソーシャルメディアとマーケティング

ソーシャルメディアとマーケティングの関係性について、再度確認しておきます。

まず最初に、「脅迫マーケティング」という概念を提示しました。
特にエンドユーザに対してモノやサービスを提供するB2Cの場合、どうしても意思決定が感覚的になってしまうことや、商品のコモデティ化などによって、広告宣伝も極端なものになりがちです。特に、その商品の特性、利便性などを強調するために、それを欠く状態を強調した、脅迫的なモノになることが多くあります。
しかしそういった手法は、しばしば、消費者の嫌悪感をも惹起してしまい、炎上といった現象にまで繋がって行くというのも見てきました。

ここで思い出すのは、イソップ物語の中の、「北風と太陽」という寓話です。
細かく解説する必要も無いほど知られた話だと思いますが、消費者に意思決定をさせるという意味では、脅迫マーケティングは、いかにも北風的です。ある種の力を使って、消費者に意思決定させようという試みですから。
しかし太陽は、最終的には旅人の意思によって、上着を脱がせています。例え、その意思が、太陽によって意図的に照り付けられた結果のものとは言え、自由意思による判断だという点が重要です。

スライド1

脅迫の対極にある、人々の自由意思による判断を、特にマーケティングの世界で可視化した概念を、「エンゲージメント」と呼びます。

エンゲージメント(engagement)とは、約束、誓約、従事、没頭などを意味します。婚約指輪、エンゲージリングのエンゲージメントです。

スライド5

企業に纏わる用語としても、しばしば使われます。例えば、愛社精神のようなものを意味することもあります。
最近では、顧客が企業やブランド、商品、サービスなどについて抱く愛着心や親近感のことを意味する言葉として定着しています。

ここで考えてください。

消費者のエンゲージメントは、例えば何によって測れるでしょうか

広告、広報と並んで、PRという言葉も使われます。多くがニュアンス先行で使われており、その厳密な意味を定義するのは、余り意味の無いことのようです。
PRとは、Public Relationの頭文字ですが、一般に、企業や団体などが、社会との間に良好な関係性を作って行くこと、と説明されることが多いと思います。それらの双方向のコミュニケーションを活動を通じた「よい関係づくり」がその目的ですが、ここで言う「よい関係」を示すものが、エンゲージメントと考えるとわかりやすいと思います。


さて、エンゲージメントは、どうやったら得ることが出来るでしょうか
これは、旅人に対する太陽にあたるものを見つけ出すことを意味しています。
そのために、ソーシャルメディアを使ってリサーチを行い、旅人のペルソナを作り上げていくということを行うわけです。

・ソーシャルリスニングとデータ分析

ここから、人々のエンゲージメントが可視化されているソーシャルメディアを使ってリサーチを行います。
目的は、消費者たちの潜在的な心理や欲求であるサイコグラフィックス変数の実態を明らかにすることです。これを、マーケテイングの世界では、「コンシューマー・インサイト」と呼びます。

ソーシャルメディアでの会話や、行動、嗜好などに関するデータを、収集、調査・分析して、経営、マーケティング等の基礎資料としていくわけです。
それによって、ここでは課題の「裏付け」データを手に入れたり、仮説案の「検証」データを探すことを行います。

スライド24

人々の実態データを調査するためには、アスキングとリスニングの2つの手法があります。
アスキングとは、アンケートやインタビューなどのように、調査側が質問を投げかけて、対象からデータを得る手法です。
それに対してリスニングとは、調査対象の日常的な会話や行動などを観察することで、必要なデータを得る手法です。

問いかけです。

アスキングとリスニングの、特性、利点欠点などを挙げてください。

アスキングは、前もって質問を用意するので
 ・論理的な調査ができる
 ・調査対象をスクリーニングできる
 ・意見の多さを測定できる
などの利点がありますが、逆に
 ・質問者によってバイアスが掛かる
 ・想定する範囲内の調査しかできない
といった欠点もあります。

それに対して、リスニングは、
 ・想定を超えた実態調査が出来る
 ・バイアスが掛からない生の声を聴くことができる
という特性がありますが、
 ・話題になっている(バズ)ことが中心になってしまう
 ・想定している対象を絞る必要がある(雑音)
という点にも注意する必要があります。

例えば、内閣支持率は、メディアによるアスキングによるデータが中心ですが、SNS上の意見とは異なっている気がしませんか…。

このリスニングにソーシャルメディアを使うのが、ソーシャルリスニングと呼ばれる手法です。それを用いて、ここではリサーチを行います。

まず、トライアルの課題として、SNSを使って、以下のデータを集めてください。無理に結論を出す必要はありません。

課題:
大学生は、オンライン授業に対して、どう捉えているでしょうか?

SNSでリサーチしてください。具体的にどういうことに留意していくかは、ここではまだ解説しません。試行錯誤してみてください。

・データ分析における留意点

データを見るときに重要な視点を、2つだけ指摘しておきます。

この図を見てください。

スライド26

「アナザー人類興亡史―人間になれずに消滅した“傍系人類”の系譜―」金子隆,2011年4月 からの引用で、約2万7千年前に絶滅したネアンデルタール人の化石の発見場所を示しています。
ヨーロッパ各地に分布していますが、スペイン内陸部には空白があります。なぜ、スペイン内陸部にはネアンデルタール人がいなかったのでしょうか?

もう一つは、広く知られている例で、「要点で学ぶ、デザインの法則150」,William Lidwell他,2015年10月からの引用です。
この図は、第2次世界大戦中アメリカの戦闘機が帰還した際にダメージを受けていた箇所を示したものです。このデータを元に、戦闘機の帰還率を上げるためには、どこの装甲を強化するべきでしょうか?

スライド27

この2点について考えてみてください。
その解説は、次回行います。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?