Webとマーケティング 授業資料(10)

人の繋がりの特徴を考える

「社会的ネットワーク(social network)」という考え方があります。
人々や企業、国など、あらゆる社会単位をノードと捉えて、そこにある相互の関係性を表した構造を指す概念です。
社会学や人類学、経営学、組織論等の学問分野で、対象をグラフで捉えることで、新たな知見が得られており、有効性が明らかにされています。
この授業の内容でもある、マーケティングでも、社会的ネットワークの典型であるソーシャルグラフとWebを用いた新たな手法が行われています。
グラフは、何かと何かの関係性を簡潔に表現することができます。

つまり、人間関係、コミュニケーション、取引、感染、影響など、1つ以上の関係により結びつけられた、個人や組織を、ノードとアークからなるグラフ構造で表現したものが社会的ネットワークです。SNS上のソーシャルグラフも、社会的ネットワークも、そのうちの一つです。

社会的ネットワークを考える上で、理解しておくべきことをいくつか確認します。
まず繋がりの構造として、繋がりには、様々な「パターン」があります。その接続形態を、ネットワークトポロジーと呼びます。
さらに、その中の繋がりを「流れるもの」が存在します。伝播、伝染、連鎖、波及等と呼ばれる現象は、それを示してます。そして、必ずそこでは、繋がることで、何らかのメリットがあるはずです。

ここでは、社会的ネットワークとして、人間の関係を考えたいのですが、その前に、考えて欲しいことがあります。

私たちの身の回りで、繋がっているモノには何がありますか?
いくつでも挙げてください。
さらにその繋がりの、ネットワーク上の特徴はどうなっていますか?

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授業では、学生さんから、いろいろな例が挙がりました。その中の一つですが、例えば、この映像を見てください。

アメリカンフットボールの会場での、ウェーブですね。観客が一体化して、観客席に大きな波が起こっています。
この観客の中で、なんらかのコミュニケーションがあり、その結果として、このウェーブが生まれています。では、この観客同士はどうつながっているのでしょうか。

ここには、何万人もの観客がいますが、もちろん完全グラフではありません。現実世界のネットワークには、完全グラフはまず存在しません。
前述のように、自分以外の全てのノードと接続するわけですから、アークの数は、「n(n-1)/2」となります。
例えば、五万人の会場だとすると、1,249,975,000、12億以上の繋がりが存在していることになりますが、まずあり得ません。
個々の観客は、自分の前後しか意識していないはずです。ですので、次数は前後左右としても、4つ程度の、低いネットワークです。また、このウェーブをコントロールしている人はいません。

ネットワークには、全体をコントロールしている中枢が存在しているものと、中枢が無いものと2種類あります。

ネットワークには、「中心性(Centrality)」と呼ばれる特徴量があります。大きく3種類あり、繋がりの中でどのノードが中心的な存在かを示す指標のことを意味します。
特にコンピュータシステムや通信などでは、集中型、分散型という区別がありますが、これはネットワークの内部構造に着目するもので、集中型が中心性を持つものです。このウェーブは、分散型の構造で、中心はありません。

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しかし、次の例はどうでしょうか。学生さんの挙げてくれた例は、ケツメイシでした。よく意味が分かりませんでしたが、客席とアーチストとの一体化がすごいとのことです。同じように、観客の繋がりですね。

映像を教えてもらいましたが、確かにその通りで、多くの観客がアーチストに併せて拍手したり、歌ったりしています。先ほどのアメリカンフットボールと同じように、この観客も完全グラフではないし、相互の繋がりは殆どないでしょう。その代わり、ケツメイシが中心になっています。全員がアーチストを観ているはずですから、そこにはネットワークの中心があります。

中心性を計測する基準には、大きく3種類あります。
ノードの次数が大きいものをネットワークの中心と考えるものを、①次数中心性(Degree Centrality)、ノード間の距離に基づき他のノードへの平均距離が短いものほど中心性が高いと考えるものを、②近接中心性(Closeness Centrality)、そしてネットワーク全体における役割に着目して中心性を判断するものを、③媒介中心性(Between Centrality)と呼びます。この場合、それが失われるとネットワークが分裂してしまうような点を中心と考えます。
ケツメイシのライブでは、アーチストが次数中心性を持っているわけです。

さらにここにクラスター的な要素が付け加わると、例えばこの映像のフラッシュモブ風ライブのようになるかもしれません。

これらの例は、確かに人間の繋がりですが、これらは何か目的を持った集団で、どう見てもソーシャルメディア上の繋がりとは違っているようにしか思えません。元々人間の繋がりは、何かを目的にするわけではないという点で、大きく異なっています。

この図を見てください。これは人間の繋がりを示す図ですが、この繋がりは何を理由とした繋がりでしょうか。

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これは、「つながり-社会的ネットワークの驚くべき力-」,ニコラス・クリスタキス,講談社2010からの引用です。
この繋がりは何を意味しているかわかりますか?


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