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Webとマーケティング 授業資料(9)

ソーシャルグラフで明らかになること

では、ソーシャルグラフでは、何が明らかになるのでしょうか。人間の関係は、どういうものなのでしょうか。これから、ソーシャルメディアを使ってリサーチを行いますので、そこでわかる関係が、どういう性質を持っているかを知るのは重要です。
地図によって、その地域の地形が俯瞰できるのと同様に、人間の関係も、ネットワークとソーシャルメディアが登場してきて、初めて明らかになってきました。
まずは、ネットワークの性質を理解してください。

ネットワークの外部性と収穫逓増

まず大前提として、ネットワークの持つ特性として、「ネットワークの外部性(Network Externality)」「収穫逓増(Increasing Returns)」という現象に関して説明します。

これは特に、ネットワークそのものが持つ価値を示す基本的な概念です。
ソーシャルグラフを含め、人間のネットワークは、そこにコミュニケーションの経路が存在するという点が機能の源泉です。
例として、4人の加入者で構成されているネットワークを考えます。
そのネットワークで通信可能な回線の数は、図左に示したように、6本であり、そこには6通りのコミュニケーション経路が、存在していることになります。

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そこに2人の加入者が増えたとすると、通信が可能な回線の数は、図右に示したように、15本になります。

n人が加入するネットワークでは、任意の二人を結ぶ経路の総数は、「n(n-1)/2」となります。
つまり加入者の増え方に対して、経路の総数は約2乗で増加していくため、もしネットワークの加入者が最初の10倍の40人になると、通信回線数は780、つまり130倍に膨れ上がります。

コミュニケーションの経路の多さは、そのネットワークの利便性を高め、経済価値を生み出します。
多くの加入者と通信できる方が便利なのは言うまでもありません。
つまりネットワークには、大規模なものが有効であると言う「規模の経済(Economies of Scale)」の原則が働きます。
その意味では、最も多くのユーザを持つFacebookのソーシャルグラフは、規模の経済という観点からは、一見すると最も価値が高いように見えます。
多くのソーシャルメディアの中で、Facebookが注目を集める理由は、まさにこの点にあると言えるでしょう。
ネットワークの利便性は、加入者の数によって左右されます。そのため、ある人にとってそのネットワークが価値を持つか否かは、自らの行動ではなく、自分以外のユーザの数に依存することになります。

ある人の行動が当事者以外の第三者に経済的な影響を及ぼすことを、特に経済学では外部性と呼びます。
他の人にプラスの影響を与える場合を「外部経済(External Economy)」と言い、マイナスの影響を与える場合を「外部不経済(External Dis-economy)」と呼びます。
例えば、鉄道の開通によって路線の土地の価格が上がるといった例は、外部経済を示しています。その逆に、例えばゴミ処理施設などができることによって、近隣の土地価格が下がることがあるとするならば、それは外部不経済となります。

通信ネットワークは、加入者という要素によってその利便性が決定するため、明らかに外部経済性に基づいています。加入者が多いネットワークは、それだけ経済価値が高いということです。

特にネットワークでは、回線の数は加入者数に対して、その約2乗で増えていくという点は重要です。ほんの少し加入者が増えることで、回線数は急激に増加していくことになるわけです。
そのため、いったん市場シェアを獲得した勝者にはますますシェアが集中していくという現象が起こります。こうした現象を、「収穫逓増」と呼びます。

人の繋がりには、外部経済とともに収穫逓増現象が働いています。何より、2006年9月に一般に開放されたFacebookが、前述のように高々5.6年で8億人にも及ぶユーザを獲得したのも、例えば多くのフォロワーがいるインスタグラマーが、より多くのフォロワーを獲得していくのも、この収穫逓増原理に基づいた現象だと言えるでしょう。

ソーシャルグラフと繋がりの特徴量

グラフを使って、数的な面からネットワークの特徴を明らかにすることができます。
ソーシャルグラフは人間の繋がりをグラフ化したものなので、特に人間同士の関係が持つ特徴を明らかにすることが出来ます。ここではグラフの数学的な特徴を元に、ソーシャルグラフの繋がりについて考えますが、数的な話になりますので、要点だけかいつまんで解説します。
重要なのは、数字で表現できると、私たちが感覚的に抱いているネットワークや人間関係のイメージを客観化できるという点です。それによって、情報が伝わる理由や、炎上のメカニズムを知ることが出来ます。

ここで取り上げる概念は、以下です。
 ・次数
 ・頂点間距離
 ・完全グラフ
 ・クラスター
 ・クラスター係数
 ・NWの密度

一般に、点(ノード)の数によって、ネットワークの大きさを示します。例えばソーシャルメディアでは、しばしばユーザの数そのものが取り上げられます。Facebookのように8億人が使っていると聞けば、大規模なネットワークを想像するでしょう。
しかしネットワーク中では、ユーザの数だけではなく、繋がりが重要な要素となるため、それだけではネットワークの本当の規模を判断することはできません。
ネットワークの場合、点と繋がりの2つの側面で見ていきますが、2点間の関係と、3点間の関係の2つの観点から把握することができます。

例として、図に示すようなグラフを想定します。ノードは、A,B,C,D,iの5つです。さらにそれらの繋がりを、表で示します。どちらも同じ繋がりを表しています。

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2点間の関係

まず2点間の関係から見ていきます。
グラフ上で、点に接続している線の数を「次数(Degree)」と呼びます。
各点は線の両端にあるため、グラフ上にある全頂点の次数の合計は、線の数の2倍になります。
このグラフの場合、次数の合計は12で、線は6本あります。

ネットワークを構成する各頂点の次数の平均値を、「次数平均」と呼びます。この場合、2.4です。
またネットワーク上の次数毎の頂点数の割合を「次数分布(Degree Distributions)」と呼びます。
さらに、次数が他の点に比べて飛び抜けて多い頂点のことを、「ハブ(Hub)」と呼びます。この場合は、ノードiですね。
ハブは、ネットワーク内での相対的な次数の多さによって示されます。

ある頂点から他の頂点に到達するような一連の線の集まりを「歩道(Walk)」と呼び、ある二点が歩道で結ばれている場合、最も短い歩道の数を「距離(Distance)」、あるいは頂点間距離と呼びます。
例えばBとDの場合、BiD,BAiD,BAD,BiADがありますが、最短は2です。

また、ネットワーク内にある実際の線の数を、最大限に結合可能な線の数で割ったものを、「ネットワーク密度(Density)」と呼び、これによってネットワーク内部の繋がりの割合を計ることができます。これを人間の繋がりで考えた場合、集団の中での人々の親密さを表すと言っていいでしょう。

図のグラフの場合、5つのノードがありますから、最大限に結合できる線は10本です。
 5*(5-1)/2=10
実際には、6本のノードですので、ネットワーク密度は、0.6です。
 6/10=0.6
ネットワーク上の全ての点が全て結びついている状態を「完全グラフ(Complete Graph)」と呼びます。

3点間の関係

2点間の関係は、ネットワークを構成する最小の要素ですが、さらに三者間の関係を元にして、ネットワークの様々な特徴を明らかにしていくことができます。
ネットワークの中の三点が完全グラフ状態の場合、その三点間に三角形を描いた部分グラフが成立します。図のグラフの場合、ABiとADiがあります。

このように、隣接している三点の頂点が繋がっている場合を、「クラスター (Cluster)」と呼びます。クラスターという言葉は、一般用語としても使われるようになって来ましたが、グラフでは、クラスターとはネットワーク中に存在する三角形を単位として集まった纏まりを意味します。
これを人間関係で考えた場合、クラスターはその関係の中にあるより密な関係を表しています。

あるネットワークの中にクラスターが存在するということは、そこにコミュニティなど、緊密な関係のグループが存在していることを意味しています。
特に社会ネットワークの分野でクラスターという言葉が使われる場合、グラフでの三角形状の繋がりといった厳密な定義よりも、コミュニティとほぼ同義のものとして用いられることが多くあります。

現実の人間関係では、例えば特定の人間Aとその友人Bがいて、さらにBの友人Cの三者がいる場合、AとCの間には、新しい友人関係が発生しやすい傾向があります。
こうした現象を、心理学の世界では「トライアディック・クロジャー(Triadic Closure)」と呼び、こうした新しい人間関係を生み出すようなAとBの繋がりを、「第三者的紐帯(Third-party Ties)」と呼びます。

ネットワークの中でクラスターが占めている割合を、「クラスター係数・クラスタリング係数(Clustering Coefficient)」と呼びます。
完全グラフの場合は、クラスター係数が1となり、またクラスター係数が0の場合を、「空グラフ(Null Graph)」と呼びます。

図で言えば、5つのノードの中から、任意の3つを選ぶ組み合わせが、作ることが可能なクラスターの数になります。
異なるn個のものからr個を選ぶ組合せは、nCrと書き、以下のように求めます。
 5C3=(5*4*3)/(3*2*1)=60/6=10
この場合、10通りになります。つまり、クラスターは10個作れます。
A,B,C,D,iでは、ABC,ABD,ABi,ACD,ACi,ADi,BCD,BCi,BDi,CDiですね。

実際に存在しているクラスターは、ABi、ADiの2つですから、2/10で、0.2となります。この計算の詳細は、「場合の数」の解説を見てください。結構忘れてしまっていますが、小学校でやる算数なんですね。

ネットワーク密度(Density)が同じでも、クラスター係数が違う場合があります。以下のように、どちらもネットワーク密度は0.6ですが、クラスターの数が異なるため、ネットワークにおける人々の親密度が違っています。

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複数のクラスターから構成されるネットワークの場合、単純な次数や距離などでは、その構造の実態は明確にはなりません。
前述のように、クラスターとはネットワーク中に存在する繋がりの強い纏まりを意味します。人間のネットワークなどは、こうしたクラスター群が集まって、一つのネットワークを構成しています。

さて、以上がネットワークの特徴を示す概念と量の概要です。これを元に、人の繋がり、つまりソーシャルグラフについて考えてみたいと思います。
まずは課題です。
人の繋がりは、どういう構造になっているのでしょうか?、
想像してみてください。
特に、ソーシャルグラフ上の、次数分布、密度、クラスターなどについて考えてみてください。

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次に続きます。

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