八十五歳の誕生日
上野勝
年を重ねるということ
物忘れが出始め
何もかも忘れてしまう
悲しいものだ
貯金通帳 印鑑 ドアの鍵
日常のほとんどが
五分後には頭から消える
銀行や 郵便局で デイサービス
青年後見人の代行と
炎天下の中 飛び回り手続き
振り込め詐欺の電話も入る
見上げれば黄昏に沢山の鳥が
ねぐらに帰ってゆく
ただやりきれぬ寂しさの八十五歳の誕生日
※詩誌「爪」146号
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?