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吉原祇園太鼓セッションズ『吉原のローカルミュージック』これまでとこれから

リリース記念鼎談

東海一の祇園と称され、江戸時代から続く静岡県富士市吉原の吉原祇園祭。かつての東海道の吉原宿としても栄えたこの町では毎年6月、「吉原祇園祭」が賑々しく開催される。

吉原祇園太鼓セッションズの音楽は、そのお囃子を基に生まれた「吉原のローカルミュージック」。多くのメンバーが幼少時代から吉原祇園祭のお囃子を聴いて育ったこともあり、吉原祇園太鼓セッションズはそうした太鼓文化を継承しながら世界中でここにしかない音楽を生み出そうとするグループである。
 
2023年春にリリースした『FUGITIVE』『FUGITIVE DUB』ではジャマイカのスカバンド、ザ・スカタライツの名曲をカバー。これまでも吉原祇園太鼓セッションズは、例えば1stレコードのライナーノーツなどで収録曲の引用元をあえて表に出すなど、「先人の系譜の継承」がキーワードとして浮かび上がるような音楽の作り方や紹介の仕方が見受けられた。現にバンドリーダーの内藤佑樹も、「音楽は先人の系譜を継承したものが同時代の影響を受けて成り立っており、その繋がりを面白く感じる」と話す。
 
吉原祇園太鼓セッションズにとっての「先人の系譜の継承」も検証するべく、今回のリリースを記念して一部メンバーによる鼎談が実現。収録秘話や2022年3月にリリースした「YGTS1」以降の活動も振り返りつつ、『吉原のローカルミュージック』のこれまでとこれからについて語ってもらった。


鼎談メンバー:内藤佑樹(ギター、鉦、笛、太鼓/六軒町)、川島麻友美(サックス、鉦、太鼓/昭和通り)、小鉄(パーカッション、太鼓/依田原三丁目)、高木健(ドラム/六軒町)、yas(太鼓、鉦/本町三丁目)
書き手:たきせあやえ(吉原中央カルチャーセンター)



叩き手の体も太鼓のうち

内藤 今日は過去1年少しの活動も振り返りながら、改めて僕らのルーツであるお祭の太鼓についても話せたらなと。セッションズのメンバーは吉原祇園祭に参加する色んな町内に所属してて、僕と健くん(高木)は六軒町。健くんはセッションズに参加したのがきっかけで2018年から祭に参加し始めたんですよ。
 
高木 僕は同じ富士市だけど吉原ではない場所の出身です。祭はコロナ禍の中断もあったので3回参加して。今は太鼓もちゃんとたた…ける、と思います。
 
内藤 健くんはドラムを高いスキルで叩けるだけに、納得いくレベルまで太鼓を「叩けます」と言えない葛藤があるんでしょうね。
 
高木 音を出す表現、「打楽器」という括りではドラムも太鼓も一緒なんだけど、祭の時にドラムの意識で太鼓を叩くと「音は合ってるけどお前の太鼓はなんか違う」ってダメ出しをすごく喰らいます。
 
内藤 「太鼓っぽくない」「太鼓っぽい」はよくある会話ですね。叩く時のフォームを重視している部分もあって。小太鼓なんかは、二人の叩き手の「腕を上げる、振り降ろす」が揃うことが大事。町内によってはかなり高く腕を上げるところもあって、その腕の振り方次第で音に揺れが出て、独特なノリが生まれる。
 

小太鼓は腕を肩の上まで大きく振り上げる。
写真提供:FUJI&SUN / 衣斐 誠

yas 太鼓は独特の「溜め」がある。たとえば練習で「1234」と拍を数えるんですが、「1」はバチが太鼓を打つ瞬間じゃなくて、腕を振り上げて降ろすまでの時間も含まれてます。
 
川島 口頭ベースで太鼓を教えるのも関係してるかも。楽譜に書かれた情報じゃなくて、カタカナが書かれた黒板を見て「テンテケドコドン」と唱えながら教えるという練習をします。どちらかというと「きいてうたう」という感じ。


ヴォーカルとしての太鼓

高木 「うたう」といえば、『FUGITIVE』を作りながら太鼓はヴォーカルパート、ビートやリズム楽器ではないと気づいて。面白い発見でした。BPMをうまく維持して叩きながらも、それだけでは太鼓が死ぬのでグルーヴを出さなきゃいけない。セッションズに入った頃は太鼓とドラムの良い距離感を掴むのに苦労してたんですけどね。あと今回やってみて、小鉄さんのジャンベあってこそのバランスが確立したと感じました。
 
小鉄 そうなっていたら有難いです。「ドラムも太鼓もあるのにジャンベ必要?」と思う時はあったので。だから健くんが言う「太鼓がヴォーカル」は納得。何度もライブ演奏してきた曲を収録した前のアルバムと違って、録音するために曲を作るのが初めてだったので余計それが顕著でしたね。健くんのドラムは普段ライブ感がすごいけど、今回はストンとシンプル。
 
高木 太鼓が活きるバランスを考えた結果、サクサクと機械的に進めてこうと。

FUGITIVEのレコーディングの様子。

内藤 僕も録音を何度も聴き返すうちに、ドラムが下支えしないと太鼓が活きないから、歌として考えた方が曲作りしやすいのかもしれないと気づきました。曲ごとにアプローチは違うので自分たちでも「こうすれば正解」と言うのはなくて、活動初期は太鼓が道標になるべきって考えもあったくらいなんですけど。『FUGITIVE』に関しては太鼓だけで音を埋める感じにならなかったですね。



祭とともに育ってきたメンバー 

吉原の子供たちは幼少期に町内の青年から太鼓を教わって育っていく。写真手前は小学校低学年の頃の内藤。

内藤 僕は幼稚園年中から六軒町で太鼓を叩いてます。
 
川島 私は10歳から。うちの町内は山車の上に乗れるのが小学校高学年からだったので、小さい頃は山車の上で太鼓を叩く人に憧れてました。
 
yas 僕は小3から叩いてたかな。昔は子供も多かったけど、今はどの町内も人手不足で、希望すれば幼稚園から叩ける町内さんもあるようです。
 
小鉄 僕は依田原三丁目で、物心ついた時には叩いてた。うちの町内は少人数で、小さい子も重宝されてましたね。叩く機会もたくさんありました。だから高学年になってやっと叩けるって憧れもなく、小学生のうちに飽きてしまった(笑)もちろん大人になった今は違いますよ!
 
内藤 セッションズのライブの中で観覧者の吉原人を巻き込み宮太鼓(*)のセッションをやるという時間を作っていて、そこで小鉄さんと初めて出会った時、ビビりましたもん。笑ってんだか怒ってんだか分からない顔でバシバシ叩くからこんな人いるんだーって。

(*)宮太鼓:神輿が来るまでの約1時間、路上で大胴を1対1で囲み一定のリズムで叩く。叩き手は数分ごとに交代していく。

内藤が言及している、小鉄が初めて太鼓セッションズの宮太鼓に参加した沢田ビル祭り(2017年)の一コマ。この時の飛び入りを経てバンドへ加入した。

小鉄 町内ごとの叩き方の性格っていうのがあって、ファンクっぽいとか16ビートっぽいとか色々あるんですけど、うちはシンプルで真面目。
 
内藤 依田原三丁目は東の山神社、六軒町は西の木之元神社に属していて(*)、神社が違うとかなり異文化交流感ありますね。それくらい町内ごとの太鼓の叩き方もだし、祭に対するスタンスやルールも違います。

 (*)吉原祇園祭は6つの神社が合同開催している。



ルーツの延長に生きる音楽

小鉄 20-30年前は各町内で人手が充実してたので、今より他の町内の人と接点持つことが少なかったと思います。だからセッションズは絶妙なタイミングとメンバーが揃って活動できてる。ファーストレコードを出したことでこれまでにない反応を僕たちも目撃することになったし。
 
川島 2022年は「スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド」(*)に出られたのが大きかったですね。セッションズ、祇園祭を全く知らない方が殆どという状況で演奏するのも初めてでした。

(*)スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド:富山県南砺市で1991年から続く日本最大規模のワールドミュージック・フェスティバル。 

内藤 それまでは商店街のイベントやFUJI&SUN(*)など地元でしか演奏してこなかったので、「祭の人が何かやってる」というふうに聴く方が多かったと思います。だから音楽への感度が高くて祭のことを知らないお客さんが多いスキヤキで、身ひとつで出ていっても認めてくれる人がいることを強く実感しました。吉原の一歩外へ出るとこんなに違った目で見られるのかと。

(*) FUJI&SUN:2019年より富士市内で開催されている音楽イベント。吉原祇園太鼓セッションズは2021年から毎年出演している。
 
yas カルチャーショック、反省、発見…全部いい経験でした。身を引き締めてちゃんとしなきゃなと。
 
川島 スキヤキは、主催の方に「地元の伝統を大切にし、そこに根付いた活動をするアーティストを呼びたいと思ってた」というメッセージをいただきましたよね。それは私たちが「生まれ育ったルーツを音楽表現に繋げてる」ということだと受け止めました。私たちは、太鼓を『習いごと』や『音楽』としてやってたから、という理由で結成したわけではなくて。
 
内藤 「音楽のツールとしての打楽器=太鼓ではなくて、地域の生活の中で太鼓を叩いてきた人たちが音楽をやってる」ということかな。
 
川島 その表現、すごく好きです。

内藤 スキヤキは僕らにとって大きな体験だったので、実は今回のジャケット、僕らが出演した2022年のメインビジュアルの配色を参照させてもらいました。黒ベースに黄色のシルクスクリーンは難しいということなんですが、同じ色にしたいがために職人さんが頑張ってくれて、実はコストがかかっている(笑)

吉原祇園太鼓セッションズFUGITIVEのジャケット。
スキヤキミーツ・ザ・ワールド2022年のメインビジュアルは川村亘平斎氏によるもの。
川村氏はFUJI&SUN'22にも出演した。


ゆるやかな主体性から続いていく音


内藤 アルバムを出してから、お祭の先輩に「これぞ吉原祇園祭だよ!」と言われたことがあって。「みんなが主体的に何かやってる=吉原っぽい」ってことだと解釈してますが、僕たちは「祭から派生してバンドをやってる」というのは少し違ってて。もちろん祭は神事として大事にしていきたいし、セッションズで祭を茶化すつもりはありません。ものすごく乱暴な言い方をすると、「祭とともに育った僕/私がバンドをやったらこうなりました」というだけなんです。
 
さっき小鉄さんが「タイミングとメンバーが絶妙に揃った」と言ってたのは本当にその通りで。
実は昔からぼんやり「ファンクと太鼓って合うのでは?」って思ってたんです。例えばジャズファンクの曲によく出てくるボンゴやコンガも、どうしてもお祭の太鼓っぽく聞こえちゃうんですよね。トントコした感じが似てる。そんな折に参加した「商店街占拠」(*)の運営チームに川島や勇貴(太鼓担当の高橋)がいたから、試しに太鼓とのセッションをやれた。

(*)商店街占拠:吉原商店街の立体駐車場を舞台に、地元の若者有志により2013-2015年に開催されたイベント。マルシェ、パフォーマンス、映画上映などが各回3日間にわたり繰り広げられた。

商店街占拠の時は太鼓・サックス・ベース・ドラムの編成だった。

健くんが富士に帰ってきたタイミングも重なったし、僕らのやってることに興味を持ってくれたお祭の仲間の加入も続き。そして地元でFUJI&SUNが始まって出させてもらえることになり。同じく吉原に「こだまレコード」を主宰するTOP DOCAさんがいたことでレコードを出す流れに・・・そういう巡り合わせの積み重ねで今こうなってるのかも。

TOP DOCA氏。DJでの活動やスカバンドSIDEBURNSのドラムのほか、自主レーベルのこだまレコードやTOP DISCO RECORDS(TDR)を運営する。今回のレコードもTDRからTOP DOCAプロデュースによるリリース。


yas 内藤は妙な打算もなく興味や楽しいことに素直で「これがやりたい」と最初に言う人。だからみんな彼のことをバンドリーダーとして尊重してやってる印象はあります。だからなのか、それぞれの楽器がうまく隙間に入り込み合う気がする。
 
高木 いい感じに肩の力が抜けてるのもあるかな。今後も無理なく自然に続けていけたらいいよね。
 
内藤 祭関係者で「継承」を口にする方は多いのですが、吉原祇園祭自体そうやってゆるく先輩方から連なって今もあるのかもしれません。去年いなかったけど今年いきなり「忙しかったんだよね」って現れる人もよくいるし。今話しながら気づいたけど、「継承」の文化とともに育ってきたから、音楽も「系譜・継承・影響」というキーワードで楽しんでいるのかも。セッションズもゆるく続けて、いつのまにか結成30周年とか迎えていたいですね(笑)
 

Fugitive / Fugitive Dub
12インチ45回転アナログレコード
2023年4月12日リリース
各種サービスでも配信中

吉原祇園祭で山車の競り合いの際に囃される「おだわら」という演目と、スカタライツによるファンクの掛け合わせ。こだまレコードのTOP DOCAプロデュース。B面はBim One Productionのe-muraによるDubミックス!

吉原祇園太鼓セッションズの今後のライブ予定
2023年5月7日(日) 吉原寺音祭
2023年5月13日(土) FUJI&SUN'23

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