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【映画】『エジソンズ・ゲーム』の感想

公開延期を経て、ついに公開した「エジソンズ・ゲーム」

ベネディクト・カンバーバッチがすごい好きなМикаなので、予告を見てから内容はどうでもいいから早く見たいな〜〜という気持ちでいっぱいだった。が、コロナの影響で映画館が休業になり。。。そう。「ミッドサマー」を見てから一度も映画館に行くことがなかったのである。このままじゃ、2020年でみた映画がミッドサマーだけになっちまう・・・そんな恐怖を抱えたまま、迎えた6月。ついに映画館が営業を再開!春先から公開が延期されてきた作品が、6月からどんどん復活。皆さんお待ちかねの「エジソンズ・ゲーム」も、上映がスタート。ちなみに、エジソンズ・ゲームは2017年の作品だという。どうやら、日本の映画館に到達するまでに、3年かかっちゃったみたいだね。だから、もう見たことある人もいたかもしれない。ベネの大ファンの方は。ごめん、Микаは「ドクター・ストレンジ」からのファンなので新規ちゃんなの。
前置きはこのへんにして、本編のレビューをしていこうと思います。歴史をしっかり学んだ人たちにはネタバレではないです。ていううか、社会の教科書がガチのネタバレですから。ここでいうネタバレは、シナリオ的な伏線とか、表現とか、映画的な表現を指しています。歴史は知ってるけど、映像で楽しんでみたい!っていう人は読まないようにね。

エジソンとウェスティングハウスの「電流戦争」

映画のタイトルになっているのはエジソンズ・ゲームですが、洋題は”The Current War"です。直訳すると「電流戦争」。これは、社会の教科書にもしっかり残っている歴史です。私の記憶ではエジソンVSテスラで、ジョージ・ウェスティングハウスという人間は全くもって初耳だったんだよね。だから、映画もエジソンとテスラのターンが多いかと思っていた。でも違った。直接バトルしていたのはエジソンとウェスティングハウス。テスラは本当に端役だったなあ。これはこの映画の少し残念なところだったんだけど、テスラについては情報がすごく少なかった。というか正直、登場人物の全てについて情報が少なかったと思う。これ以上でも以下でもないな、という役はエジソンの秘書インサル君だけ。けど、歴史上の人物を3人も同軸で動かすのはすごく難しいから(しかも作品が2時間未満)仕方ないことでもある。それでもやっぱり、テスラが本当に中途半端だった。特にエンドロール前のまとめ文章がヤバさに拍車をかけた。テスラ好きな人が見たらかなりキレると思います。おそらく電流戦争に関わった偉人の中で、一番すごい人はテスラだった。それだけは言える。
エジソンとウェスティングハウスの電流戦争は、(映画内では)シカゴ万博で決着がついた。エジソンの直流は破れて光の街は交流で作られた。エジソンが勝手に始めたゲームは、自身の敗北で幕を閉じました。だけど、勝敗は重要ではなかったようだね。今の時代は、直流と交流が仲良く共存しているらしい。電気のことは全然知らないけど、今Микаが使っているMacBookは直流で動いている(何と、ベネ様の発明品を使っている!w)。部屋の電気は交流で点いているんだって。それを知った時、ウェスティングハウスのあの言葉が頭をよぎった。

Or you cannot build a fence at all.
Your garden would be twice as big.
そもそもフェンスを作らないこと。
そうすれば未来は二倍に大きくなる。

あの時、エジソンがふざけんじゃねーよ俺のものは俺のものだろってキレ続けていたら、オール電化生活はままならなかったかもしれない。いろんなことわざがあるけど、敗北を知って成長してくれてありがとうと言いたい。そして、根気良くエジソンに付き合ってあげたウェスティングハウスには足を向けて寝ることはできないね。ありがとうマジで。
そういえば、ウェスティングハウスって謙虚な人物として描かれていたそうだけど、やっぱり日本の文化的意味の謙虚とはだいぶ違うな、という印象だった。全然謙虚じゃない、あれは。凄腕のワンマン社長って感じだ。ズバズバ言いそう。キレ者だろうし、人を使うのが上手だと思う。ついでに言うと、日本版予告にある「狂気」も全然なかった。いたって普通。本当に。もしかしたら、エジソンは内面的に狂気なのかもしれないけど…全然伝わってこなかった。というか、一番狂気を感じてサイコパスみがあったのはテスラという。可愛い。
そろそろ歴史の話はおしまい。次からは、シナリオ上の演出について書いていくよ。

エジソンが残したかったものと、ウェスティングハウスが実現したかった未来

エジソンが残したかったものは「自分の名前」。ストーリー上ずっと名声に執着していたよね。アメリカに住む人々に自分を知ってもらいたいし、これだけすごいことをしたんだぞ、と誇示したいし、そのすごいことを独占したい。「トーマス・アルバ・エジソン」であることを誇りに思っていたし、自分が作ったものは何者にも変えられない。対して、ウェスティングハウスは自分じゃなくてもよかった。とにかく、人々が豊かな生活になるだけでいい。だからこそ、テスラを含め能力ある人々を使うことができて、みんなで素晴らしい発明をしてきた。でもね、いくら名声はいらないとは言っても、ウェスティングハウスという会社のテスラがこんなことを発明したよ、とみんなが知ったら、「へー。ウェスティングハウスっていう会社はすごい優秀な人材ばっかりだね!」って思うだろうから、勝手についてくるんだよね。名声って。ここがすごく面白いなって思ったんだ。エジソンって、この時点ですごく損してるでしょ?この関係がよく表されていたのが、シカゴ万博の様子。
シカゴ万博で使用される電球がウェスティングハウスに決定し、会場に電球がセットされていく。もちろん、要所にはコピーライトwが付いてくるわけだよね。来場する人々はもちろん、ウェスティングハウスの名前を目にすることになります。一方、交流で人を殺す「電気椅子」についてあれこれ画策していたエジソンはというと…自分の経歴に傷がついたし大成功とまではいかないけれど、まあまあ成功したといって良いでしょう。人々に、「交流って、ウェスティングハウスだよね?危ないかも…」という印象を与えたのは間違いない。でも、気づきましたか。エジソンの名前を覚えた人がいないことを。良いことも悪いことも、どちらにも取り上げられるのは「ウェスティングハウス」。エジソンが一番残したかった名前は、どこにもありませんでした。(点灯式にエジソンがいなかったのも、その象徴だよね)
映画では、電気椅子での死刑シーンと点灯式が同時に進行していく。そこにあるものは全て交流=ウェスティングハウスの成果のみ。より良い未来を目指して誠実に生きてきたウェスティングハウスは交流に溢れた世界を手にし、自分が望まなかった名声もまた、自然に得ることができた。
この表現がとても素敵で、Мика一番泣いた。シカゴ万博のシーンで使われている音楽は、ヴィヴァルディの「春」のアレンジ。これからの未来を象徴する軽やかで、美しい曲。切ないシーンにこういう明るい曲が乗せられると、テンション上がって泣いちゃうんだよね。なんでかな? この曲のハイピッチものすごい泣ける。エジソンとウェスティングハウスの成果を思い出しながら、聞いてみてください。

音楽からも「お前は負けた、エジソン」という、エジソンには手が出せない領域からの圧力が感じられる。
春といえば、始まりや別れ、変革、変化と言った意味が含まれているよね。それを思うとシカゴ万博のシーンでこの曲が選ばれたのも納得である。エジソンにとっては「執念」との別れ、ウェスティングハウスにとっては「未来」との約束であり始まり。そして、新しい世界へ到達した祝福の音。

シカゴ万博での勝敗を受け入れたエジソンは、最後にウェスティングハウスと少ない会話をした。自分たちがいくら偉業を成し遂げても、どうせ人々に忘れ去られてしまうだろうね。悲観的になっているエジソンに、ウェスティングハウスは問います。(13時間も続く)電球ができた時、どう感じた?と。そこで、エジソンは思い出したはずです。あの時の興奮を。そして最後は、映画(シネマトグラフ)を満足げに見るエジソンが映し出されます。映画の走りを作ったのはエジソンだけど、スクリーンに映像を写すシネマトグラフを作ったのは、エジソンではないことに注目。時間軸が前後するけど、シカゴ万博が開催される前に、このシネマトグラフについて訴訟を起こしていたんだよね。だから、そのシネマトグラフをあんな感じで見てるのは信じられない!(あれだけ自分のものが他の誰かに使われることに反発していたエジソンが、大人しく座って見てるよ!)。エジソンが改心したとしか思えない描写。若者へ、未来へ技術や発明を「受け継いでいくこと」に寛容になった証だよね。

今でも残るトーマス・エジソンという名前

もう名声なんてどうでもいいや〜と、エジソンが考え始めたかもしれない時から、歴史は変わった。エジソンメダルが作られ、歴史の教科書に載り、子供たちが空で言える名前。それが「エジソン」。しっかりと人々の記憶に残っていた証拠です。対して、シカゴ万博で有名になったかと思われたウェスティングハウスは、子供たちの記憶には残っていません(Микаの記憶にもねw)。これはエジソンとウェスティングハウスの最後の会話シーンで示唆されてたよね。エジソン、サイン頂戴。という男の子はウェスティングハウスのことは知らないから、サインを求めない。そして二人が別れるとき、エジソンは彼に気づいた来場客を引き連れて退出していきます。一人残されるウェスティングハウス。人々の記憶に残る、といった意味では完敗でしたね。
Микаの印象では、エジソンは娯楽の発明品を多く残している人。だから、遊び心があって楽しげで、子供のような人って思っていたんだ。反対にテスラは大真面目でカタブツな発明品ばっかりで、効率厨のイメージ。どっちが人気かっていったら絶対エジソンだよね。子供たちが好きなアメリカのヒーローは、2020年でも子供たちのヒーローです。もっとも、好きかどうかはわからないけどね。受験やテストで出てきたら、すごくボーナス問題だと思う。
電流戦争では負けたエジソンだけど、一番の夢は成し遂げました。実はちゃんとハッピーエンドだったんだね。ハッピーエンド大好きだから、すっきりして良かった☆ちなみに、ベネの演技で一番グッときたところは、息子にキネトスコープを教えているシーン。自分の癒しでもある多くの作品に気付くシーンなんだよね。電流戦争に負けたと確信したエジソンが見せた表情です。失ってきたもの(名声と、子供との時間や死別した妻)と、自分が残せた作品を比較してのあの表情。言葉にできない…。怒りはなく、穏やかで痛みと悲しみが伝わる演技だった。フォーカスされるキネトスコープ。自分の居場所はここかもしれないと、エジソンは考えていたはず。自分の癒しがたくさん詰まった発明品。ただそれだけでいいのだと。

歴史を知るきっかけになった「エジソンズ・ゲーム」

久しぶりに映画館に足を運んで見た映画がエジソンズ・ゲームですごく良かった。史実のドラマはやっぱり面白い。同じ時代には生きていないけど、実際にいた人物だということにすごく…自分の無力さを感じるというか。すごいなあ、っていつも思う。何食べて生きてるんだろうね?
エジソンが名前を残したがる気持ちはわかる。いろんな名言がある中で、こういうのがある。

人生は何事もなすにはあまりにも長いが、何事かをなすにはあまりにも短い。
ー中島 敦

これはすごく好きで、Микаはよく言い訳に使ってるんだ!
そんな私にとってはエジソンやテスラ、ウェスティングハウスが達成したことに恐怖を感じるんだよね。テスラなんてショートスリーパーの中の神だよ。

睡眠は毎日2時間程度。1年に1回は5時間だけ寝ていたという。
ー「エジソンズ・ゲーム」映画パンフレットから

すごいよね。
あと、テスラが鳩に餌あげるのが趣味っていうのもすごい笑う。可愛い。
とにかく、こんなすごい人が地球にいたってことは、Микаにとってフィクションの世界。エジソンのようにはなれないと思うけど、自分も何かを受け継いでいきたいと思える作品。
こんな時期に映画館に行けって言えないけど、それでも見にいく価値はあると思う。
でも・・・・
隣、空席だし前も空席だからすごい見やすいよ。
それだけは伝えておく。
最後に。
今回すごく面白かったnoteを紹介しておくね。

写真もたくさんあって読みやすかったです。
エジソンのことをもっと知りたい人はぜひ見てくださいまし!

ノブレス・オブリージュ