見出し画像

「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定」を読んでみる

【はじめに】
この記事では、2021年12月に話題となった「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定」について私なりにポイントを拾っていきたいと思います。

『日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定について』の概要だけ読んでみる

この想定を書いたのは、「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震対策検討ワーキンググループ」の方々です。「内閣府の施策」から入る文書なので専門的に読めば読むほど、難しくはなるのでしょうが、概要部分はそれなりに素人でも読める程度の日本語だったので、ご紹介していきます。

日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定について (PDF形式:182.5KB)

報道では断片的にしか伝えられませんが、“主たる目的”がどこにあるのか。

Ⅰ 被害想定の趣旨等

1.これまでの経緯(要約)
・2015年2月:「モデル検討会」設置
・2020年4月:最大クラスの震度分布・津波高等の推定結果を発表
・2021年12月:今回の「被害想定」を発表

2.被害想定の目的(筆者の解釈で補記)
被害想定は、
・具体的な被害を算定し被害の全体像を明らかにすること、
・被害規模を明らかにすることにより防災対策の必要性を国民に周知すること、
・広域的な防災対策の立案、応援
・規模の想定に活用するための基礎資料とすること
を目的として実施するものである。

3.今回の被害想定の性格
 今回想定した日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震は、最新の科学的知見に基づく最大クラスの地震であり、東日本大震災の教訓を踏まえ、「何としても命を守る」ことを主眼として、防災対策を検討するために想定したものである。

 最大クラスの地震は、発生頻度は極めて低いものの、仮に発生すれば、広域にわたり甚大な被害が発生するものであるが、今回の被害想定は、被害の様相や被害量を認識・共有し、効果的な対策を検討するための資料として作成したものであり、対策を講じれば、被害量は減じることができる。

 今回の被害想定を踏まえ、巨大地震・津波が発生した際に起こりうる事象を冷静に受け止め、「正しく恐れる」ことが重要であり、行政のみならず、インフラ・ライフライン等の施設管理者、企業、地域及び個人が対応できるよう備えることが必要である。

《 ポイント 》
ただの「命を守る」ではなくて、「『何としても』命を守る」という表現を使ったのは、南海トラフ巨大地震の被害想定の時と同じはずです。

そして「最大クラスの地震」の部分を敢えてテレコにすると、「仮に発生すれば、広域にわたり甚大な被害が発生するものの、発生頻度は極めて低い」となります。
報じられていた様な十数万人が亡くなる地震が「次に」起こるとまでは断言しておらず、あくまでも「考えうる最大クラス」であることにも留意は必要かと思います。

Ⅱ 被害の様相【別添資料1】

日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定について【被害の様相】 (PDF形式:909.7KB)

別添資料1が、文字ばかりで116ページあるんで、よっぽど興味のある方は読んで頂ければ結構かと思います(苦笑) 一旦、次へ行きます。

Ⅲ 被害想定結果(定量的な被害量)【別添資料2】

別添資料2では、被害量について、かなり詳細に具体的な数字が出されています。そしてこちらも75ページにのぼりますので、我々=一般人は、自分の関係のある地域について時間のある時に読めば十分かと思います。

むしろ、大事になってくるのが、下に書かれている文章です。

今回想定する地震・津波は最大クラスのものであり、広域にわたり甚大な被害が想定されるが、厳しいものであるからといって、住民が避難をはじめから諦めることは、最も避けなければならない。
防災対策の効果等も併せて伝えることによって、いたずらに住民の不安のみ を煽ることが無いように配慮することが大切
である。

日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定について【定量的な被害量】 (PDF形式:2.7MB)

今回の被害想定が出されたことで、本文を一切読まずに「懸念」されていた反応をしている人がかなりネット上に居たのが気になりました。
「住民が避難をはじめから諦める」事は、せめてこの記事を読んでおられる方々には避けていただきたいと考えます。

1.被害想定の前提条件
(1)想定する地震動・津波【参考資料1】
(2)想定する地震の発生時期・時間帯
 ① 冬・深夜:避難が遅れ、津波による被害が最も多くなる
 ② 冬・夕 :
 ③ 夏・昼 :津波による被害も少なくなる

「東日本大震災」は甚大な被害を出しましたが、③ に近い「春の昼」に発生をしました。もしあの超巨大地震が真冬の深夜に起きていたらと思うとゾッとしますが、今回はそれを想定しています。

実際、東日本大震災より多くの犠牲者を出した「明治三陸地震」は深夜に、「昭和三陸地震」も未明に発生して、被害が拡大しました。
一方で、20世紀以降の「十勝沖地震」などは午前中に発生していて、まだ、津波を認識しやすい状況だったことも申し添えておきましょう。

2.主な被害想定結果【別添資料2を参照】
(1)建物被害【別添資料2 P.8】
(2)人的被害
 特筆:(エ)低体温症要対処者数【別添資料2 P. 9~10】
(3)経済的被害額【別添資料2 P.31】

報道もなされているとおり、今回の被害想定で特筆すべき点は、人的被害のうち「低体温症」への対応です。

2018年9月に発生し、厚真町で「震度7」を観測、数千もの土砂崩れが確認された「北海道胆振東部地震」では、北海道ほぼ全域がブラックアウトしたことも記憶に新しいところです。

この時は9月上旬と比較的まだ温かい時期に発生しましたが、もしこれが今の様な真冬(氷点下2桁)の時期に起きたら、1週間耐えられない方が相当数出てもおかしくありません。

まして、「津波に流され水を全身に被った方」や「真冬の屋外で避難を余儀なくされた方」を考えるだけで、低体温症のリスクは国内でも顕著なことが容易に想像できます。

Ⅳ 防災対策の効果について

今回の被害想定により、広域にわたり甚大な被害が想定されているところであるが、後述するように、しっかりとした対策を講ずれば想定される被害は減少する見込みである。
行政のみならず、地域、住民、企業等の全ての関係者が被害想定を自分ごととして冷静に受け止め、何ら悲観することなく、

①強い揺れや弱くても長い揺れがあったら迅速かつ主体的に避難する。
②強い揺れに備えて建物の耐震診断・耐震補強を行うとともに、家具の固定を進める。
③初期消火に全力をあげる。


等の取組を実施することにより、一人でも犠牲者を減らす取組を実施することが求められる。

「何ら悲観することなく」はどう考えても難しいのですが、それとは対照的に、「①~③」で示された取組はやはり重要です。
実はまだしてない……という方は、「耐震診断・耐震補強を行うとともに、家具の固定を進める」のを、お題目のように目で追うだけではなくて実際に検討する段階に来ているのではないかと感じました。

Ⅴ 今後の予定について

今回の発表を受けて、多く寄せられたのが「じゃあ具体的にどうすれば?」的なご意見です。まあ実際、気になるのがそこなのは分かりますが、今回はあくまで「数年かかった被害想定」がようやく発表できた段階です。

日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震対策検討ワーキンググループにおいて、引き続き、予防対策、応急対策、復旧・復興対策を含めた日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震対策の全体像について検討を進めていく予定。

行政なんかは特にそうですが、「被害想定」が更新されたことを受けて、各自治体の想定や対応(マニュアル等)を来年以降、具体的に見直し・検討に入るというスケジュール感だと思います。

公的な「具体的にどうる」を求める前に、「具体的にどうる」という敵がようやく姿を現し始めた段階なので、拙速に求めても仕方なく思います。ただ、被害想定が発表されたからには、速やかに既存のものを更新していく準備を整えていく必要はあろうかと思いますね。

「項目及び手法の概要」が個人的には興味深い

本文を読んでも文字ばかりで堅苦しい印象でしたが、もし更に具体的に情報を得たいという方は、「別添資料3」を眺めてみることをオススメします。

【別添資料3】日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定項目及び手法の概要 (PDF形式:6.4MB)

イメージ的には、本文が「教科書」ならば、こちらは「カラー資料集」でしょうか。PowerPointで作られ、非常にカラフルで図表も多くあります。

※ 個人的には、地震という災害の「ハードル」が提示されているように感じました。これらの要因で地震による被害を受ける。それをどうやって避けて行くかという風な見方も出来るのではないかと。

ただ、学者さんでもなければ、どうやって「被害想定をするか」の算式や具体的なプロセスを知る必要は全くないと思います。むしろ我々にとって大事になってくるのが以下の点です。

  1. 「地震」による(直接的)災害が殆ど網羅されている(しかも具体的に)

  2. 「東日本大震災 (2011)」に加え、熊本地震 (2016) や北海道胆振東部地震 (2018) などの実際のデータも反映され、更新されている

  3. 各分野の先行研究を1つにまとめた「総まとめ」的な内容になっている

個別のプロセスについては詳しい方は意見があるでしょうが、総合的に見たら、「出来る限りのことはした」感があります。
私が「note」で書こうと思っていた内容がここに集約されているので、ぜひ興味のある方は「被害想定項目及び手法」を眺めてみて下さい。

【おわりに】じゃあ我々はどうするか

この記事の【おわりに】を兼ねて、「じゃあ我々はどうするか」を簡単に。

  1. 「東日本大震災」を超える地震が「南海トラフ」以外でも起こりうることを改めて自覚する

  2. 具体的に書かれた被害想定を、我が事として捉えて、より具体的に対策を立てる(2月の深夜に起きたらどうやってあの避難所まで逃げるか、や、1月の平日昼に起きたら、どうやって家族と連絡して、どこで会うか等)

この2つが大事だと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?