見出し画像

俳句チャンネル ~「プレバト!!」名人の句またがり 編~

【はじめに】
この記事では、「プレバト!!」俳句名人による『句またがり』の秀句を独断と偏見で1人1句厳選してご紹介していきます。今回は基本、「添削ナシ」から選ばせてもらっています。

(※)通常、俳句の世界で分かち書きは嫌われますが、「句またがり」の効果を視覚的に示すため、敢えて空白を挿入しています。ご了承ください。

(1)若芝に大の字 身ひとつの移住/中田喜子

まずは2020年の春光戦で、中田喜子さんが初めてTop3入りを果たした句。

・若芝に大の字 身ひとつの移住/中田喜子

画像1

春の芝生に“大の字”に寝そべって、まず春の青空が視界に広がってきます。

そして、『若芝』は晩春の季語、新暦3月から4月頃でしょうか、『身ひとつの移住』という後半部分の説明くささを抑えつつ、清々しい心境を見事に描いています。「カットの切り替え」が成功しています。

(2)銭湯の脱衣所 小銭無き春よ/千原ジュニア

『若芝』の句は冒頭に季語を配していましたが、続いて、こちらの千原ジュニア名人の句は、季節を問わない状況から17音が始まります。

・銭湯の脱衣所 小銭無き春よ 千原ジュニア

画像2

『銭湯の脱衣所』は、春夏秋冬一年中あります。そして、「小銭無き」まで季語がなく、最後に「春よ」と大きく感嘆符をつけるように展開した作品。

これは、銭湯→脱衣所→小銭(なき)と「大→小」へと展開して、最後に「春よ」と非常に大きな季語に着地という俳句的な遠近法で描いています。

(3)紙雛のにぎやか 島の駐在所/梅沢富美男

そして、2019年2月の月間MVPを獲得した梅沢富美男名人の句……これは、中田さんと千原さんの句の技法を両方取り入れた様な作品です。

・紙雛のにぎやか 島の駐在所 梅沢富美男

画像3

冒頭に『紙雛』という季語を配して、「にぎやか」という漠然とした形容にとどめ、句またがりの後半で、「島の」→「駐在所」と「小→大」へと展開しています。

画像4

俳句的な遠近感を意識して描けるようになると、この「句またがり」が非常に心強い味方になりますし、使えるようになれば有効な武器となります。

(4)新幹線待つ 惜春のチェロケース/藤本敏史

フジモンの句またがりの作品では、個人的にこの句が好きなのでww

・新幹線待つ 惜春のチェロケース 藤本敏史

画像5

この句は「待つ」「惜」と動詞的な要素が2つありますが、新幹線もチェロケースも人工物(モノ)なのに、非常にあたたかく、春の人々を切り取った作品だという風に感じます。

「新幹線」から始まって、漠然とした「待つ」「惜春」という表現を続け、最後に「チェロケース」で映像をバチッと当てはめる辺り、流石名人です。

(5)エルメスの騎士像 翳りゆき驟雨/村上健志

歴代俳句ベスト50で「人(ベスト5)」入りを果たしたのが、こちらの句。

・エルメスの騎士像 翳りゆき驟雨 村上健志

画像6

複合動詞でささやかな時間経過を描いています。「エルメスの騎士像」自体は観光スポット的になっているかも知れませんが、単なる人工物。そこに、雨を降らせることで、モノと自然をうまく調和させているのですから見事。

(6)遠雷の夜汽車 カカオの奴隷史/横尾渉

「字足らず」かつ「句またがり」という高難易度に挑戦して成功したのが、キスマイ・横尾名人のこの作品。

・遠雷の夜汽車 カカオの奴隷史 横尾渉

画像7

遠雷で光と音の五感を刺激してから、汽車という肌感覚、更に夜汽車という文学的な表現が、雰囲気をしっかりと演出します。

そこから「カカオの奴隷史」という(一般名詞的な)書籍名を取り合わせることで、よりドラマチックさを演出しているのです。これが別の書籍名だったら、また「遠雷」でなかったらバランスが変わっていたと思います。

こういう風に、「句またがり」も「字足らず」も意図をもって描かなければ効果は半減してしまうものなのでしょう。

(7)夏の海を描く スプレーの秋思/千賀健永

同じくキスマイから、千賀名人の作品。『雪原』の句は、どちらかというと句またがりというより「破調」として捉え、今回は予選1位のこの句を。

・夏の海を描く スプレーの秋思 千賀健永

画像8

「①句またがり」なだけでなく、「夏の海(非現実)」と「秋思」という「②季重なり」に「スプレーの秋思」という「③擬人化」をてんこ盛りしながらもバランスを絶賛されたこの作品。

『夏の海を描く』と一気に前半部分を読み上げ、後半に緩急をつけることで更に「句またがり」の味わいが深まるように感じる1句です。

(8)色変えぬ松や 渋沢栄一像/立川志らく

そして、様々な技巧を用いる「立川志らく」名人の作品。

・色変えぬ松や 渋沢栄一像 立川志らく

画像9

志らく名人初段昇格を決めたこの作品は、実質「2単語」を「や」で繋いだというシンプルな作りですが、見事に前半と後半の調和が取れています。

長い季語を、句またがりにしたうえで、後半も単語(固有名詞)というのはかなり句を作り慣れていないとバランスの取り方が難しいのではないでしょうか。

(9)オッケーグーグル 冬銀河にのせて/東国原英夫

『花震ふ富士山火山性微動』のような破調的な句も印象的な東国原名人ですが、長い単語を頭に置いたこの作品も、「句またがり」の好例でしょう。

・オッケーグーグル 冬銀河にのせて 東国原英夫

画像10

「色変えぬ松や」の句は前半に季語でしたが、こちらは後半に季語が配置をされています。難しいのは5音以下の季語となると、そのバランスの取り方です。

大抵句またがりになるような俳句は、非季語の比重が強くなりがちなので、そこをうまく意識した上で、バランスを取るのは見事だと想いました。

(10)吊り革の師走 遠心力に耐へ/ミッツ・マングローブ

一年の終わりの「師走」の俳句と共に、この名人「句またがり」シリーズは最後にします。ミッツ・マングローブさんの冬麗戦・予選2位の句です。

・吊り革の師走 遠心力に耐へ ミッツ・マングローブ

画像11

思わず追体験してしまうこの作品は、「師走」という3音の季語の配置が、中七の前半部分(句またがり前半の最後)という位置にあります。

「句またがり」にすることで、「師走」で1回カットを切り替えたうえで、『遠心力に耐へ』という追体験させたい部分の音数を十分に確保できているのです。

無理やり「五七五」の型に当てはめればそれも出来なくはないかも知れませんが、ここはこの句またがりの作品で決勝に行くんだ! という強い思いが感じ取れます。

【おわりに】

ここまで、「プレバト!!」名人10名の『句またがり』な俳句をご紹介してきましたが如何だったでしょうか。

『句またがり』の効果を認識した上で、そうした句を読むことが出来るよう私の記事も、組長の動画も繰り返し参照していただければと思います!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?