見出し画像

【臨時作成】「深さ50km以深の地震」の余震について

【はじめに】
この記事では、深さ50km以深の「やや深めな地震」の余震について調べて、本当に「あまり地震活動は活発ではない」のか確認する私的メモ記事です。

※2021年10月7日に「千葉県北西部」で起きた深さ75km(M5.9)の地震を受けての臨時調査となります。内容は皆さんでもご確認をお願いします。

◎「深さ50km以深の地震」について

そもそもタイトルに「深さ50km以深の地震」などと書きましたが、これを何と呼んだら良いのか微妙なラインです。日本語版ウィキペディアなどでは、

深発地震は震源の深さが深い地震であるが、明確な定義はない。
だいたい深さ60kmまでの地震を浅発地震、60kmから200kmまでの地震をやや深発地震、200km以深で発生する地震を深発地震という。

などと書いていますが、少なくとも一般にテレビ番組などで話す時に、深さ60kmの地震を「浅い地震」と呼ぶことは稀なような気がします。
だからこ、そこの記事でも「深さ50km以深の地震」を何と呼んだら良いのか迷った挙げ句、本筋には影響ないという判断の下、ストレートな表現のまま記事を書き進めることにしました。

(↑)過去には、私「深発地震」に関する解説記事などを書いていますが、そこでも「深発地震」がどこからかを明確には書いていませんでしたね。

「深い地震」の特徴の一つに、(個人的にこのネーミングは嫌いですが、)「異常震域」と呼ばれる特徴的な震度分布を取る事が挙げられます。そして広範囲に揺れが伝わり、時折話題になります。

もうひとつ、良く「深い地震」で語られる“特徴”が、「余震が少ないこと」でしょう。経験則的にも、何となくそのイメージが私はあります。

でも本当にそうなのか、過去のデータを紐解いたことがなかったので、今回簡単にではありますが調べてみました。

◎調査対象などについて

何について調べたかと言えば、「深さ50km以深」の地震で、なおかつ地上で被害が出てもおかしくない規模の地震です。気象庁の震度データベースでの検索条件を提示すると、

① 深さ50km以深で「最大震度4以上」
震度4ともなれば、何かしらの影響が出てもおかしくない規模ですから。

画像2

② 深さ50km以深で「M5.5以上」かつ「最大震度3以上」
現在ならば「震度4や5クラス」になる地震でも、震度計で観測する以前の震度観測網では「震度3以下」となる地震は結構あると思います。

画像1

日本列島から遠く離れた地震を除外しつつ、昭和以前の地震もカバーしようという「補完」の意味でも検索です。

①と②は大部分が重複していますが、両者を合計すれば、大体1000ぐらいは1919年以降の約100年に該当例があろうかと思います。均せば、月1回前後でしょうかね。それでは具体例を見ていきましょう。

1.北海道

1952/03/02 00:31 63km 5.7 弱 十勝沖
→ 52/03/04 10:22 54km 8.2 強  〃
→ 52/03/04 10:40 53km 6.3 弱  〃
→ 52/03/10 02:03 74km 6.9 中  〃

1952年に発生し、6.5mの津波を観測した「十勝沖地震」は、深さ54kmと、大津波が発生した地震としてはやや深めな印象です。その前後にも、実は、何例か中規模な地震活動が観測されているのです。

「やや深めな巨大地震」の日本における代表例である「十勝沖地震」は、1968年にも『三陸沖北部』を震源として発生しています。

この地震の本震(Mj7.9)は「深さが求められず、0km」として登録されているため、今回の記事ではリストアップしませんが、余震活動を見ると、深さ50km以深の地震が何個か観測されているので、1968年の本震も、1952年と似た深さだったのかも知れませんね。

1971/08/02 16:24 54km 7.0 中 十勝沖
→ 71/08/02 22:00 57km 5.8 弱  〃

1971年に起きた十勝沖の地震は「えりも岬沖地震」(震源が襟裳岬の南南東の海域)などと当時呼ばれたそうです。こうして、千島海溝から日本海溝へ曲がる辺りでは、過去に何例か該当例があるようです。

画像3

2.東北地方

東北地方では、1938年の「福島県沖」の群発地震を一旦度外視すると、多くが2000年代以降です。
まずは陸地とのちょうど境目付近で起きた2003年の「宮城県沖地震」から。

2003/05/26 18:24 72km 7.1 6弱 宮城県沖
→  03/05/26 22:34 76km 4.6 4  宮城県北部
→  03/05/27 00:44 69km 4.9 4  宮城県沖

1978年以降、再発が想定されてきた「宮城県沖地震」とは違うメカニズムとされたこの地震は、深さ72kmとやや深めとはいえ、海岸線付近を震源としていたため、震度6弱を11の市町村で観測し、余震も何度も観測されました。

それから、東日本大震災の翌月に起きた「宮城県沖地震」でも、震度6強を観測した地震の翌々日に「震度5弱」の余震が起きています。

2011/04/07 23:32 66km 7.2 6強 宮城県沖
→ 11/04/09 18:42 58km 5.4 5弱  〃

その後、2012年以降にも、最大震度4程度の事例が度々起きています。

2012/03/14 18:08 64km 6.9 4  三陸沖
→ 12/03/14 19:49 69km 6.0 3   〃
2012/11/24 05:21 57km 5.2 4  宮城県沖
→ 12/11/24 10:30 56km 4.8 4   〃
2014/09/24 21:45 51km 5.1 4  福島県沖
→ 14/09/24 22:30 51km 5.1 4   〃

そして、まだ記憶に新しい所では、2021年2月に起きた「福島県沖」の地震でも、翌日に震度4の余震が起きています。

2021/02/13 23:07 55km 7.3 6強 福島県沖
→ 21/02/14 16:31 50km 5.2 4   〃

3.関東地方

2021年10月の地震で、改めて「南関東」も地震の巣であることを再認識しましたが、過去にも千葉県北東部では、余震の事例がありました。

1973/09/30 15:17 51km 5.9 中  千葉県北東部
→ 73/10/01 23:16 55km 5.8 中   〃
1990/08/23 08:47 50km 5.5 中  千葉県北東部
→ 90/08/23 11:44 50km 5.2 中  千葉県東方沖

2021年の地震で再注目をされた2005年の「千葉県北西部」の地震でも、地震発生から3分後に一回り小さい地震が起きています。

2005/07/23 16:34 73km 6.0 5強 千葉県北西部
→ 05/07/23 16:37 68km 4.6 3   〃

2021年の例が今後どうなるかは分かりませんが、深さ70kmぐらいならば、深さ数百キロの地震と違って、結構な規模の余震が起きることはあるのかも知れません。

そして、関東地方でも特に頻度が多いのが、海域では「茨城県沖」であり、陸域では「茨城県南部」でしょう。平成の後半に中~大規模な事例あり。

2008/05/08 01:02 60km 6.4 3  茨城県沖
→ 08/05/08 01:45 51km 7.0 5弱  〃
→ 08/05/08 08:21 69km 5.8 3   〃
2012/02/14 12:27 89km 5.6 3  茨城県沖
→ 12/02/14 15:21 54km 6.0 3   〃
2013/11/03 14:25 63km 5.1 4  茨城県南部
→ 13/11/10 07:37 64km 5.5 5弱  〃

偶然かも知れませんが、ここに挙げた3例は、いずれも最初に起きた中規模の地震より後続の地震の方が規模が大きいものとなっています。

4.西日本

浅い地震とやや深い地震がほぼ半々に起きている印象の「和歌山県北部」(の中規模地震)では、少なくとも昭和に2度、ほぼ同規模の地震が起きています。

1973/11/25 13:24 54km 5.9 中 和歌山県北部
→ 73/11/25 18:19 54km 5.7 中  〃
1985/01/06 00:45 70km 5.8 中 和歌山県北部
→ 85/01/06 00:46 69km 5.5 弱  〃

そして、1995年には「奄美大島近海」でも、震度4が12分で2回起きた事例がありました。こうしてみると、和歌山も奄美大島も、プレート境界から、少し内陸に入って「やや深い地震」が起きやすい立地ではありますね。

1995/10/18 19:48 51km 5.5 中  奄美大島近海
→ 95/10/18 20:00 51km 4.9 中   〃

【おわりに】

ここまで、「深さ50km以深の地震」の広い意味での余震活動の例を、全部で「十数例」見てきました。如何だったでしょうか。全体で1,000件近いヒットのある中の十数例です。数%の前半といった値でしょう。

実は、「深さ50~90km」ぐらいの地震で、被害に結びつきそうな余震活動があったのは【今回の記事に挙げた事例ぐらい】だし、「深さ100km以深」となると、殆ど該当例が見当たらないのです。

もちろん「深い地震は地震(余震)活動が低調」なのは経験則からはかなり信頼の置ける論なのですが、2016年の「熊本地震」の例がそうだった様に、過去の経験から「最初の本震が一番大きい」とか「深い地震は余震が殆ど起きない」とかみたいな根拠の薄い言説に惑わされない様にしなければいけません。だって、財産や人命が関わってくるのですから。

ただ確率を度外視して、毎回毎回、同じ注意文を繰り返していても、危機感は確保されません。それどころか、東日本大震災の時の津波警報のように、却って誤解に基づく「安心情報」となることが大変危惧されるところです。

過去にどういう事例があり、「確率的にはこの程度だけど、もし本当に地震が起きてしまったら、その被害は決して侮れないものだ」ということを皆さんにも肝に銘じて頂ければと思います。そして、過去のデータだけでは想定できなかった事例が現実には起こりうることも合わせてご理解いただきたいと思います。

ただその前提となるのは、過去の事例の把握と理解です。イメージだけで漠然と語るより、具体的な過去の事例を用いることで少しでも防災行動に役立てば幸いです。それではまた、次の記事でお会いしましょう。Rxでした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?