小説を書くヨドルちゃん

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ヨドルちゃん|西洋占星術 ▶︎ https://note.com/yeodeolb_chan/『小説を書くことにしました』登場する人物・会社名等は全て架空のものです*更新情報はTwitterでお知らせします!

最近の記事

#16_『第一関門を突破せよ』

 新宿駅から新宿御苑の方に向けて少し歩いたところにある8階建てのビルがジャイケード新宿店。新大久保で韓国料理を食べたあとは、ここまで歩いてくることも多い。  野本秘書の指示通り、裏口に回った。こちら側にくるのはもちろん初めて。警備服を着た守衛さんに声を掛ける。  「面接で来た、星川です。」  「担当を呼ぶので、こちらでお待ちください。」  慣れた手付きで入館処理をしてくれた。  「5分ほどお待ちください。」  私は入館証を受け取り、首から下げる。あとからスーツを着た男性2人が

    • #15_『スパイへの道、一歩進む』

       「実は私、ヒゲの医療脱毛をしておりまして…水曜日に病院へ行くことが多いのです。」  話を引っ張った割にはごく普通の理由だった。普段、リブラキュリーのメンバーを見ているせいか、男性がヒゲの脱毛をすることに対して特に何も感じないどころか、綺麗で好印象だったりする。  「私は校門の前で朝の挨拶運動があるからね。」  特に聞いていないけれど、堀井社長も理由を教えてくれた。  「子供たちの安全のために、と言いつつ、終わったらアイツとコーヒーを飲むのが楽しみでね。あ、アイツっていうのは

      • #14_『アルバイトの仮面を被ったスパイ』

         父親が亡くなった時に、"人間の死"について真剣に考えたことがある。何をしても、人はいつか"死"を迎える。だから私は、残された人生を無難に生きることに決めた。  幸せはいらないから、不幸なことも起きないでほしい。手を抜くことはしないけれど、特に頑張ることもしない。  穏やかに、波風を立てないように生きよう。そう決めたのに。心のどこかでは、つまらないと思っていたのかな。  冷めきった人生の中に小さな芽が出てきたような気がする。希望、というには少し大袈裟だよね。  株式会社ジャ

        • #13_『今日、私はスパイになります』

           「随分と雰囲気が変わったね。自信たっぷりで素敵だと思う。」  春奈は、結愛の一言に気分を良くしたようだった。口角が上がったのを隠しきれていない。この笑顔に妙な気を感じてしまう。正直に言うと怖い。  「2人は今、何をしているの?」  お決まりの質問、定型文だ。こちらも定型文で返す。  「私は保育士で、凛花が…」  「転職活動をしているところだよ。」  春奈は少し、鼻で笑った。  「春奈ちゃんは何をしているの?」  待ってました、と言わんばかりに隠しきれていない口角がさらに上が

        #16_『第一関門を突破せよ』

          #12_『同窓会は見栄の張り合い』

           週末の銀座は人出が多いからあまり好きではなかったりする。どこに行っても人。あっちも人、こっちも人。ゆっくりと買い物をすることも難しい。週末はできるだけ家にいたい。  新宿での一件以来、何も手についていない。社長の言葉と表情が頭にこびりついて、ずっと考えてしまう。あのあと、リブラキュリーの写真集を引き換えたけれど、ゆっくり見ることはできなかった。私は今、確実に揺れている。  「凛花、お待たせ。」  待ち合わせ時間ちょうどに来たのは、親友の上山結愛。高校1年生からの仲である。

          #12_『同窓会は見栄の張り合い』

          #11_『社長の目に光る涙と心の叫び』

           「スパイの仕事…ってつまりどういうことですか?」  突然、スパイと言われても困るものがある。家電量販店にスパイとして潜入する必要性がわからない。ミステリーショッパーならまだわかるのだけれど。  「そんなに肩肘を張らなくても大丈夫。普通の販売員としていてくれれば良いから。」  「でも私、接客も販売も未経験です。」  「スパイのお仕事がメインだから、そこは適当にやり過ごしてね。」  「それに私は穏やかに、とにかく無難に生きたいので、スパイなんて怪しいお仕事はちょっと。」  「怪

          #11_『社長の目に光る涙と心の叫び』

          #10_『私はラッキーボーイだ、ツイている!』

           「いやぁ…また会うとは思わなかったよ。これも何かの縁だね。まずは、そちらに掛けてください。野本くん、コーヒーを。」  おじさん、いや、堀井社長は席を立ち、ソファーへ案内をしてくれた。手には私の財布がある。  「まずはこれをお返しします。あの時、拾い忘れたみたいだね。」  目の前に差し出された私の財布。今度は私が助けられた。  「ありがとうございます。面倒なことにならずに済みました。感謝いたします。」  社長クラスの方とお話しをするのはいつぶりだろうか…いや、思い出すのはやめ

          #10_『私はラッキーボーイだ、ツイている!』

          #9_『財布を預かってくれた人』

           「はい、星川です。先ほどの…?」  「はい。先ほど、新宿駅で大変、お世話になりました。お財布、落とされたので、私が預かっているんです。」  「そうでしたか…財布失くしたかも、と思って焦っていたんです。駅に預けていただいても良かったのに。ありがとうございます。」  「ははは。事務室に入り辛かったです。さすがに、あの後なので。」  気持ちは痛いほどわかる。財布拾いました〜なんて言いながら入ること、私だってできない。  「そうですよね。でも、どうして私の番号がわかったんですか?」

          #9_『財布を預かってくれた人』

          #8_『人助けと引き換えに失ったもの』

           駅事務室を出ると、例のおじさんと好青年がひとり立っていた。年齢は30代前半くらいだろうか…おじさんの息子なのかな。  「先ほどはありがとうございました。」  先に声を掛けてきたのはおじさん。好青年は黙ったまま頭を下げる。  「いえ、全然。気になさらないでください。ただ少しお話しをしただけなので。」  おじさんは言葉に詰まっているようだった。好青年がすかさず名刺を差し出す。  「この度は大変、ご迷惑をおかけいたしました。私、株式会社ジェイケードで秘書をしております、野本と申し

          #8_『人助けと引き換えに失ったもの』

          #7_『罪のないおじさんを救いたい』

           話が平行線のまま、警察が来た。男性2人に女性が1人。いい組み合わせだ。女性警官が女子高生2人に話し掛ける。  「どうした?大丈夫?何されたの?」  女性が相手だからか、女子高生の肩の力が少し緩んだように見える。そこもまた、演技上手だ。  「おじさんに突然、太ももを触られたんです。」  後ろに手を組み、ボーッとビル群を眺めていたおじさんは今、女子高生の太ももを触ったことになっている。  「私は、腰をサッと触られました。」  本人がいないと言いたい放題だ。  「うん。そうかそう

          #7_『罪のないおじさんを救いたい』

          #6_『その人、痴漢していないです』

           事務室から出てきた推定年齢32歳の駅員は、おじさんと女性陣を見るなり、深いため息をついた。  「この人、痴漢よ!警察を呼んでちょうだい。」  興奮気味のおばさまを見た駅員は相変わらずだるそうである。  「まずは、中に入ってお話しをお伺いします。被害者は?女子高生?」  急に下を向く女子高生2人に新人女優賞を授与したいところ。  「怖かったね、すぐに警察が来るからね。」  おばさまの方が随分と怖いけれど、今はそれどころではない。おじさんの表情はみるみる青くなっているのだ。

          #6_『その人、痴漢していないです』

          #5_『悲鳴の裏に隠されていること』

           最寄り駅から新宿までは電車で20分。少し早めに着くように久しぶりの電車に乗り込む。混み具合はまぁまぁと言ったところ。私はドア横に立ち、進行方向を向いて寄りかかる。  視界には、じいさんばあさん、社会人、大学生、制服姿の学生たちも見える。高校生がこの時間に電車に乗っているということは、遅刻かな?それぐらい大したことない。私だって3限目に登校なんて数え切れないほどしてきた。  私の視界に入っている女子高生は髪の色がとても派手。節約したのか、セルフブリーチで明るくしたようだ。自分

          #5_『悲鳴の裏に隠されていること』

          #4_誰だって自分がいちばん可愛い

          「こうするしかなかったんだ。本当にすまない。」  全ての手続きを終える寸前、秘書室奥のパーテーションで仕切られたスペースに田上が来た。  「ただ一言、社長とパートナーに誤解だって言えば良い話しなのに、それができないなんて…どうしてですか?」  私は純粋に疑問を感じていた。「誤解です」となぜ言えなのか。  「俺には逆らう権利なんか無いんだ。わかってくれ。」  だからといって、私が退職に追い込まれて良い訳がない。  「もうサインはしたのか?」  「サインさせられました。」  田上

          #4_誰だって自分がいちばん可愛い

          #3_『私は今日、クビになりました』

           「美咲にとって田上くんは大切な存在でね。会社にとっても必要な存在だよ。星川くんも知っているよね?」  私はここで、田上と美咲お嬢様が将来を見据えながら交際をしていることを初めて知ることになる。  しかし、心に引っかかるものがあった。田上は2ヶ月ほど前に地元の同級生と会社近くでばったり再会をして、密かにアプローチをしているという話を聞いたことがあった。情報源は田上を崇拝している吉山くんで、「これ誰にも言っちゃダメですよ!」なんて言いながら部署のメンバー全員に話していた。忘れ

          #3_『私は今日、クビになりました』

          #2_『それはただの誤解なのに』

           朝からいなかった田上はここで、社長に媚びでも売っていたのだろうか。いや、様子を見る限りそうでもなさそう。普段とは違い、背中がしゅんと丸まっている。くだらないことを考えても仕方がないので、私は指示通りの場所に座った。  「星川くん。なぜここに呼ばれたのかわかりますか?」  社長の声は単調だった。怒りとも無関心とも捉えられる。  「すみません。存じ上げません。」  田上と何かトラブルがあった訳でもなく、見知らぬ女性は社内の人なのか、外部の人なのか…存在すらわからないけれど、ちら

          #2_『それはただの誤解なのに』

          #1_『社長室への道は地獄行き』

          「お前はやれば何でもできるのに、やろうとしないよな。だからダメなんだよ。」  どんな立場で言っているのかわからないけれど、こう助言してくるのは、同じ部署の2年先輩・田上だ。このセリフは週に一度のペースで聞かされるので、私は一言一句、覚えている。  社長のお気に入りで次期エースと言われるようになってから、今まで以上に仕事に力が入り、周りの社員に対する圧力が強くなっているようだった。  今日はどこかに外出しているのか、朝から田上の姿を見ていない。周りに聞いても行き先を知る人はい

          #1_『社長室への道は地獄行き』