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社会という骨を刺しながら、寄生獣ごっこする


予定がある人は人っぽい

「予約をしないとなかなか美容院行く気になれないから、エイヤッ!って予約するの」
いつか付き合っていた制服姿の恋人が多分そんなことを言っていた。

行き先があって、そこに約束した人がいて、時間を指して、

ようやくやっと、行くかとなる。

「めんどくさい」という割に、彼女が30〜50日程度で繰り返すビヨウに、全く興味を持ってなかった無慈悲な恋人こそがボクである。

大人になり、少し興味を持った女性用風俗界隈で調べ聞いたことがある。
「女性は1年以上前から予約を入れるのも普通なの。そのくらい特別な体験を提供しているつもりで〜〜」


フツウは全然わからないけど、今なら両方ボクにはわかる。


来週の日曜日、ボクは髪を切るらしい。一昨年が7月、去年が8月。年に一回のイベントになってきたコレをとりあえず置いておこう。

髪を切るのも久しぶりなんだけど、予定というやつ自体がいつぶりなんだろう?
そういう人マネをしてみたくって、わざわざホットペッパーにアクセスしたんじゃないでしょうか。

うーーん
そうな気もするけど、違う気もする。

人っぽくなるために、10ヶ月間淫らに伸ばしただけの髪を切るのだ。


ヘアゴムが伸びきって買うのが面倒だからって、ほっともっとの弁当を巻き留めている青い輪ゴムを5,6個巻きつけるのもそれまでにしよう

機械にあう機会

1ヶ月ほど前から、ボクは派遣会社にて働き始めた。
働き始めたボクは朝6時50分頃の電車に乗る。始業8時に余裕を持って間に合う最終電車だ。
最寄りの小田急線の駅のホームに着く特急列車に、まるで人みたいに乗っかる。

働きに行ったり、学びに行ったり、誰かどこかへ会いに行ったり。朝からみんな予定に従い、電車にきちんと乗っている。

ボクなんかはきちんとしていない。
きちんとしていないので、出勤初日なんかは電車賃の400円ぽっちが手元になく、レンタル自転車で1時間半かけて会社へ向かった。

言うまでもなく都内から都内だ。

結果500円くらいの自転車使用料を支払えたのは後日だし、そもそも派遣会社の日払いシステムが初日から使えなければ、その帰りだってちゃんと電車に乗れなかっただろう。

持ち金0なので定期券は買えない。切符と精算機。貧者の通行証。行きも帰りも段取りが常人より多い。

その昔メディア論を説いたマクルーハンが言っていたらしい。
「現金は貧乏人のクレジットカード」と。
没1980年の彼だけど、寸分違わずおっしゃる通りだ。交通系ICを持たない現代人のボクはそう思う。

そんなボクでも4日も勤めれば定期券を、ひと月分くらいなら買えるようになった。使うたびに400円取られる日払い給与システムにすがって。もちろん毎日コンビニATMに挨拶をされながら。


「そしたら、週五で通っても良いよ〜ん」
と言わんばかりに自動券売機が吐き出してくれたPASMOは、乗降駅や使用期限などを印字したてで、ただひたすらにバカ熱かった。

シャカイジンなる証明証をもらったみたいだった。
まるで人みたいだ。


最寄り駅の券売機にて少しばかし感動し惚けたボクは、今年30歳らしい。


交痛費が出る社会で

今現在のボクは通勤という行為を朝からしている。前職(と呼ぶには結構時間が空いたんだけど)は、夜勤の人間だったからやっぱり変な感覚だ。

新宿方面から乗る朝の電車はからっきし空いていて、それはそれは優雅だった。
代々木上原の向かいのホームにできる長蛇の列を、涼しい顔して眺めていたのに。自分も今はちゃっかりその列に並んでいると思うと、なかなか面白い。

前職から現職までの間に、ボクはおよそ交通費をもらえるような契約を結んだ仕事をしていなかった。
交通費なしの今日っきりの職場を転々と・・・

時給や日給を都度確認する労働をしていると、交通費とは本当にありがたい仕組みだと痛感する。交通費だけで日給の10%くらいかかってしまっていたのだ。

でもその一方でこうも思っていた。
「地獄への定期代」が存在しないのが定職持たざる者の自由だと。

一度「嫌だなこの人」と思っても、明日もまたここで会う。会社がそういう場所になった時、果たして片道500円もらうことでそれがチャラになるのかは、その人次第じゃなかろうか。


それができる人って偉いなあと思う。
そしてその通勤手当を出すのが当たり前、福利厚生に仕組まれてる会社も社会も凄いなあって。
ハズレ者だからこそ深く頷いてしまう。

とっくに毎朝同じ車窓を眺めているくせにね。


縛られたいのである

髪をだらしなく伸ばすようになったのはコロナ禍だった気がする。そう書き起こしてみると我ながら普通に思える。マスクで髭が隠れる快適さに乗じて、何かとボーボーし始めた。

全然伸ばしたことがなかった毛という毛が、一体どのくらいあればゴムで括れるのか最初はウキウキした。およそ縛り上げるほどでもない長さのうちから後ろ髪を引っ張っては、情けないシッポを頭で振った。

そんなに急かなくとも、ボクなんて奴はコンドームの数十倍ヘアゴムの世話になるとも知れずに。

髪を切るのがウザったい。

めんどくささもあれば、同じく金が無いのも理由にある。そして同じく誰かに会いに行く地獄もそこにはある。

そこについては切ってからまた書くとしよう。


怠惰の塊のようなロン毛だけど、前髪が食事に浸かるくらいの長さになってからは、ほぼほぼ敵である。「長い敵」と書いて、なんと呼ぼうか?

とかく長いものは縛るに限る。
シュッとする。隠れていた耳の周りや首元に風が通りフッとなる。

あとはギュッと後頭部が軋んでいる状態。痛みにはほど遠いんだけど、ずっと引っ張られている感覚。

これが結構、ボクにとっては意味がある。
成果はない。

ただまあ集中したい時とかは、何よりも先に髪を縛り上げて、スイッチが入る

マネをする。

成果はない。


シャカイジンもどきになってから、同じ感じがし始めた。
朝6時50分という縛りだ。

アラームをガンガンかけるし、起きれないから部屋の電気をつけっぱなしで寝る。

それもまあ、一点としてしか見れてないのが今のボクの精一杯。

仕事ができる人間にとっては、そんなの一日のスケジュールを敢行するための始点に過ぎないわけだ。
凄えなあシャカイジンと、成果のない縛りに満足するボクは感嘆する。


欲を出しているとも言えるのかもしれないけど、ボクは時間を気にしたくなり始めた。

朝の電車時刻に満足するだけでは、ボクは多分またPASMOを更新できなくなる。

正直そんなのどうでもいいんだけど。


成果を出さないといけない瀬戸際にまでボクは立っている

そう自覚するためかもしれない。

勤務初日はチャリで来た。って今をケラケラ笑ってる状態が、あまりに怪人じみていることに気づいてないのだ。


骨だらけの日常

シャカイジンに戻って注意の多い日々を過ごしている。小骨が多い魚を綺麗に食えと言われているような気分が続く。
箸なんかブッ刺して楽しく豪快にくらう食事が良いのに。

時間、他人、自分、会社。
日がな一日、気も意識も色んなものに注力したり忘れないようにしたりし続けなければいけない。
それが交痛費がある者の勤め。ちくちくちくちく痛みが交わってナンボなんだから。

ボクもそれに習ってまた縛られようとする。
時計を買うことにした。

意味はない。形から入るというか、入れていないんだけど。
髪を縛るのと同じく、腕に縛りをつけたら、気が引き締まる、気がした。


その辺の起こりのことはChatgptと話してみたのでよければ読んでください


昨日会社からの帰り道。定期券の範囲内の駅で途中下車した。これぞ定期があるからこそできる豪遊だと思う。

ビックカメラの時計のフロア、壁に大量に吊るされた安価な時計たち。チープカシオでも着ければ、無印良品をこよなく愛す無印男子のように思われそうだと感じた。

のでなんとなくSEIKOにした。陸上競技をやっていたから馴染みがあるって理由なんだけど。時計のブランドなんて知らないけど、陸上のゴールシーンでSEIKOの字面がテレビに映ってるのはボクでも知っている。

やっと時計を買って、今初めて右手に着けながらこのnoteを書いている。パルキア1号と名付けよう。

んで今の今、試しに『SEIKO 時計』でググって公式サイトを見てみたら、翔平さんがデカデカと出てきてポカンとしている。

同い年なんて括りを明かすのは失礼なほど大きな存在の彼と、腐っても同じ時代で同じ時を刻むことを、愉快に思ってしまうボクである。

そしてきっとボクは30%オフの3800円で買ったこのパルキア1号とブツクサ喋りながら、毎朝骨だらけの彼らを日々観察するのである。

それがこんなボクにとっての、予定であり縛りであり使命な気がする。書こう、作ろうって。





こんな奴も生きれてるから、焦らずいこうな新シャカイジン

終わり


創作の片手間に飲むコーヒー代にさせていただきます!また作ろうって励みにさせてもらいます。