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邂逅 - 1st Phase

「期待していたことと違ってでも
いたのかい?」

目の前の紳士は大げさに驚いたよ
うな表情を見せると、ひどく神経
に障る声で笑った。

「ここが、君のいう、そう…異界
なんだよ」

どうだい、と己の創造した世界を
自慢げに見回す「神」のようなそ
の仕草は、口調以上に芝居がかっ
ていた。

たまらなく不快だった。

紳士は、手にしていたステッキを
くるりと回すと気取ったポーズで
僕を見た。

「答えになっていません」

「おや」
僕の返答が意図とは異なったのを
面白く感じたらしく、ふん、と鼻
を鳴らした。

「僕が尋ねたのは、そういう意味
のことではありません」

「そうか」

詩人を名乗ったその紳士は気障な
仕草で外したモノクルを付け直し
た。

「視線のもとを探っているのだと
思っていたのだがね」

「詩人」という類いの存在を、僕は
尊敬まではしなくとも、一定以上
の敬意をもってみていたつもりだ
った。
その、ある意味では僕の一方的な
思い込みと尊敬の念を、この詩人
は破壊しようとしているかのよう
だった。

詩人を名乗ったその紳士は気障な
仕草でモノクルに手を添えた。

「念入りに準備した嫌がらせを台無
しにするだけ、本気らしいね、君」

面白そうに笑った。


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