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意図せぬ邂逅の一幕

あたしの主様はね

心底惚れた女を喜ばすはずだった
そのせりふを、まともに口にする
事さえできなかった…ただの、朴
念仁さ

背中と二の腕にたいそうなモノを
飼っているくせにね、と真紅の瞳
を伏せて娘は微笑んだ。

だから、
あたしが、
そばにいてやるんだ

世の趨勢も理とやらも、そんなも
のはね、真に大切なモノの前じゃ
あどうでもいいような些末な事な
んだよ

「……ほほう、それってのは」

娘は、つんとその華の顔を逸らす
と、私を導くかのように、道の奥
をさらに進んだ。

漆黒の闇
そのなかに道が出来る

「いい話、じゃあないですか」

なにを言いたいんだ、あんた、と、
娘は言いかけて照れたようだった。

風流人を気取るだけあるじゃないか
その風流を、ひとさじでも味わえば
主様も味が出るだろうにさ

「…それはそれで面白くない、と」

娘の笑い声に邪気はなかった。

行く手に小さな灯火が揺れた。
夜雀の光だと知れた。

狭間の主様に宜しくと。

うちの主様の伝言だよ、
と娘は微笑むと
真紅の焰となって

闇に溶けた。

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