静寂の瞳 Sceneー2
追いつめられたような
ささくれた<意識>の流れ。
微かに饐えた匂いのする闇の奥底
一体の揺らめく影があった。
その姿はさながら
巨大な <翼持つ蟲>のよう。
また、<嘴をもたぬ鳥>のようで
もあった。
<それ>は、自らを<狩人>であ
ると認識していた。
その自覚が、ややもするとあやし
くなりかけてきているとも、感じ
はじめていた。
永き時を渡り
追い続けてきた<獲物>を、どう
やら見失ったらしいのだった。
そのことが、自らの<意識>を蝕
みはじめていることに<それ>は、
気がついてた…。
我は自暴自棄になっているのか?
<狩人>は胸のうちでつぶやくと、
かような事は、あってはならぬ…
錆色に乾ききった<唇>を 自らの
唾液で湿した。
無限であると信じていた、自らの
<生命>がその実、一瞬の閃光に
すぎないものであるかもしれぬと
いう恐怖に、それは良く似ていた。
<獲物>なくして<狩人>では
いられない…。
<狩人>は闇の奥底に伸ばして
いた<触手>をひきもどした。
かような事はあってはならぬ…
やがて<狩人>は、ひとつの決
意をかためた。
知らねばならぬ…。
声なき声が<狩人>の<触角>
をわずかに振動させた。
闇に潜む瞳が、鮮やかな真紅に
輝く。
我は、知らねばならぬ…
ばさり
と巨大な翼が虚空に閃いた。
<彼の者>が いずこに其の身を
潜め得たのか知らねばならぬ…
それは、 ある意味では羨望にも
にた感情だった。
深淵の闇をぬって<影>が舞う…
狩るのだ…。<彼の者>を
煌きの線が何条も虚空に散った…
邪悪な有り得べからざる<華>が
開いたかのようだった…
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