神話と歴史の旅:バベルの塔のはなし

〇この記事の前書き

 Twitterの話ですが、

「とにかく会話すると感染しやすいコロナって、人間社会を
 崩壊させにかかってるな。バベルの塔を破壊した時に、
 世界共通の言語を失わせた神の罰を連想。」

 こんな発言をさせていただいたんですよ。私にしてはけっこうな「いいね」やリツイートもいただきまして(ありがとうございます)、興味深く思ってくださった方が多いのかな、と感じました。

 ちょうど仕事も谷間に入ったところですし、元々聖書の該当箇所に気になるところも多いと感じていたので、もうちょっと書いてみようと思った次第です。

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〇『聖書』の「バベルの塔」

 「バベルの塔」といえば、ブリューゲルの有名な絵画もありますから、日本でもよく知られています。キリスト教徒でなくても、「天にも届くような高い塔を立てたから、神の怒りに触れて破壊された」というお話の概要は知っているという方が多いのではないでしょうか。

 でも実際のところ、聖書に書かれているのはそんな概要くらいの内容しかなかったりします。『旧約聖書』の「創世記」第11章がバベルの塔について記された箇所ですが、文字数にして約480文字ほどの短い章です。一般的な400字詰め原稿用紙で1枚ちょっとしかありません。

 私自身も最初に知ったのはそこからなのですが、その昔横山光輝先生のマンガ原作をテレビアニメ化した『バビル二世』に「バビルの塔」という秘密基地みたいな施設が登場していたんです。5000年前に建てられたされる高い塔ですが、内部は近代的なコンピュータが詰まっていて、砂嵐を巻き起こす機能があるため余人は近づくこともできません。
 そんな「バビルの塔」が、聖書に出てくる「バベルの塔」をモデルにしていると知った時は、聖書を読んでみたいと思ったものでした。

 そんな経緯もあって、実際に聖書を手にいた時にバベルの塔についての記述を探して見つけた時には「これだけ?」と落胆すら感じたものです。中でも残念なのは、一般的な聖書では「バベルの塔は破壊されていない」こと。バベルの塔をモチーフににしたとされるタロットカードの「塔」のように、神の雷を受けて崩壊する姿を想像していた身には、拍子抜けする事実です。神が行ったのは、建設に従事していた人々を各地に散らばらせ、世界中の言葉を混乱させた、ということだけ。

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〇言語の混乱

 聖書という書物の役割を考えれば、塔崩壊のスペクタクル描写などなくて当然かもしれません。逆にこの短い記述から気になったのは、「言語の混乱」です。

 バベルの塔のエピソードについては、聖書の内容をアニメ化した作品(『手塚治虫の旧約聖書物語』がありますが、自分の記憶がそれを示しているのかは確認していません)なども子供の頃に見て、離散させられた人々は皆「言語を忘れてしまった」という表現になっていたように思います。

 「言語を混乱」させたという表現は、捉え方にも拠るかもしれませんが、「忘れさせた」よりも曖昧に感じられます。要は地域や氏族によって使う言語が変わったのでしょうが、その辺りもうちょっと詳しく知りたいと思ったわけです。

 今回Twitterに書いた内容は、自分なりに想像する「詳しい流れ」に基づいた発言であったりしたわけです。

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〇妄想「神罰・言語の混乱」

 神々が人間の世界にもたらしたのは、会話を交わすことで伝染する病だった。後にバベルと呼ばれることになるその街では、洪水を生き延びたノアの末裔たちが集まり、協力して塔を建築していた。

 神と呼ばれるものたちが下した結論は、人間の造る塔など問題ではなかったが、このまま好き勝手にさせておけばいずれ反抗する勢力が作られるだろうということ。その前に連帯を妨げる手を打たねばならない。もっとも有効な手段として挙げられたのが、人間たちから共通の言語を奪うこと。どのようにすればそれが実現できるかを話し合い、伝染病が選択されるに至っている。

 当初人間たちは病気の伝染の仕組みもわからず、ただ神に許しを請い続けた。やがて効果がないとわかってくると、病気そのものを理解するための経過観察や伝染する条件や感染を防ぐ手段を考え始める者も現れるが、愚かな民衆はそれを信じない。民衆にとってより身近に感じられるのは、神や悪魔といった存在のせいにすることばかりだった。

 やがて、人間たちは血族関係を中心とした小さな集団に分かれ、異なる集団と対立するようになる。互いに監視し、感染者が出ればその者が属す集団ごと殺戮することで、他の集団の感染を阻止する。それぞれの集団は仲間内にしか通じない暗号を用いて会話するようになり、集団相互の交流も減っていく。最終的には集団単位で街を離れ、互いに干渉されない土地を探して、移り住んでいった。

 そうして、各地に散らばった集団ごとに民族や国家を形成し、それぞれが言語が発達させ、互いに争い合う構造の土台が築かれた。

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〇結び

 そんな妄想の上で、最初に挙げたつぶやきを発信したわけです。現在のコロナ禍があっての想像ですが、魔法みたいにぱっとすべての人間から言語の記憶が消えたりせず、何が起こっているのかわからないなりに人間がどう反応したのかを考えたりするのも楽しいと思いました。

 コロナ禍から国家間の対立なども目に見えてきている今、本当にそのようなことにならなければいいのですが。

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