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ハローベイビー お前の未来を愛してる


それは眠たい冬の日で

朝から曇っていて起きる気がしなくって、何度も揺り起こされながらああとかうんとか言って、なんとか起き上がった。
仕事も捗らず、打ち合わせをほどほどにこなして寒さに唸りながらパソコンの前にいた。
昼過ぎに飛び込んできたニュースに、あっという間に混乱に陥ってしまって配偶者が買い置いてくれたカップヌードル(えびまみれ)をぼおっと食べて配偶者にも連絡すると、彼もどこか混乱した様子でその事実を受け入れていた。

2003年、初めて足を踏み入れたフジロックで金曜日の朝イチに鳴り響いてたギターの音を思い出す。
その年、TMGEは解散した。
いつまでも続く物はないのだなあと思っているうちにもう20年経っていた。
とっくの昔に、もう戻らないことは分かっていたけど本当にもう戻らないんだと突きつけられた。

いつまでも若いままではいられない。私たちは一日一日老いていく。

そんな気持ちが向かったのはクローゼットの中だった。
クローゼットの中、左手側に「真面目な仕事向けに揃えてあるブラウスやタイトスカート」が一年間ぐらいずっと残っていた。
「いつか『まともな』姿が求められる場所があるかも知れないから」
そう思ってずっと残していたけど、そんな日は一日たりとも現われなかった。
どんな場所でも、気付けばスキな服で足を運んでいたし、仕事だってそうだった。金髪で変形スカートを着て仕事をする私に誰にも何も言われなかった。
むんずと掴んで袋の中に入れる、あれもこれも、ついでに中途半端に持て余したニットも。
スキだったのに着なくなったスカートも。真面目さを残した白いシャツも。

「一生ありつつけるものなんてないんだったら、もうスキなものしか着たくない」

そう思いながら全部詰め込んで、退路を断つようにタビブーツ以外のブーツも詰め込んで、玄関に置く。あとは仕事終わりに担いで売りに行くだけだった。

もう『まとも』ぶろうとするのはやめよう。
とっくにその対極に立っているのは、気付いていただろう。
イレギュラーな断服式になったけれど、11月開催分の冬の断服式は予想外の転機を迎えるきっかけになった。

妥当な服は、妥当な値になった。

寒い夜に家を出て、電車を乗り間違えながら目的地に到達して、20分の買い取り査定を待っていると数千円の値段になった。
ユニクロでニットが一枚ぐらい買える値段。
「妥当な値だなあ」と思いながらサインをしてお金を受け取る。
その足で天下一品にラーメンを食べに行って、なんならこってりラーメンに唐揚げがのってる特別なメニューを食べてさっき貰ったお金の一部で支払う。
そういえば実家の方にはじめて天一が出来たときにこってりラーメンを食べたときには高校生ぐらいだったが不思議に気持ち悪く感じていたけれど、今はひどく好きになっている。
大人になると食べられるものが増えるというのは、舌の味蕾が幼い頃より衰えて鋭敏じゃなくなっていくからだと、ファーストサマーウイカがラジオで言っていた。

さあもう退路は断ったぞとこってりラーメンのスープにひたった唐揚げを頬張る。
私は自分の好きな服で毎日過ごす事に決めた。
クローゼットの半分は空っぽになったけど満足している。
TAOの赤いスカートを履いたって、髪をブリーチしてたって、仕事は出来る。出来ることを見せてやる。
何か言う人がいたって私はもう止まることすら出来ない、したくない。

私は私の未来を愛してる。

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