私の中のプリンセス。

ナルシストになる瞬間、ある?

幼少期に全ての「かわいい」の手持ちカードを使い切った、と自分の容姿を笑い飛ばす私も
鏡をじっと眺めてしばらく感嘆する瞬間がある。

メイクが終わったあとの自分の顔が好きだ。
多分世界で一番好きだ。

じいっとながめて角度を変えてまたじいっと眺めてさらにじいっと眺めて
「よし」となる瞬間。
どんな眠たい朝でもふっと爽やかな風が通ったように感じる。

中学校時代からちょうどKATEやマジョマジョといったコンセプチュアルなプチプラコスメが出て来たことがきっかけで
休みの日だけ化粧をするようになって沢山の失敗をし
(びっくりするぐらい真っ青なアイシャドウを塗っちゃってお笑いのメイクみたいになっちゃったり、
チークを塗るという習慣がつかずに顔が真っ白であることを指摘されたり)
人生でそれなりの金額を費やしてきたからこそ言える。

私はメイクをした顔がすき。
メイクさえしておけば最強って言える。

家族からいらん容姿の否定(と同時に過去の容姿の賛美)を受けていた私としては、「かわいい」と言う言葉はいっそ禁忌のようなものだった。
だが、メイクは道具さえ揃えてやり方を丁寧に学べば形として正解に近づいていけるところが本当に好きだ。
もっとたくさんのメイクのやり方を学ぶことも出来ると思う。
化粧品そのものについて学ぶことだって出来るだろう。
もっと言えば商売にだって出来るかもしれない。

でも私はあくまでメイクをしたときの私の顔が好きというシンプルな結論にしか達しないのだ。

鏡で見てうっとりとする瞬間が一番好き。
なんて素敵な顔をした人だろう。
うつくしくもあり、かわいげもあって、かっこよさがある。
と、心の中のナルシストが嬉しそうに舌なめずりをしている。
私にとっての自己愛の頂点は朝の数十分の中にある。

最近はそこにかいまり先生から教わったへアセットが入り
自問自答で選んだ服も相まって気持ちよく過ごせる朝が続いている。
(制服じゃないものを着ざるを得ない日はちょっとだけしょぼんとしている)
本当に、シンプルだけど自分を喜ばせるには自分の手を動かすことで集めてきた達成できたものの集合体なのだ。

自分が選んだもの。自分が学んだもの。自分が手に入れた品物。
それを丁寧に丁寧に毎日使うことが自分を輝かせてくれると私はなんとなく気づき始めている。
誰がどんなに否定したとしても、私が得た経験はもうこれ以上誰にも奪われることなんて出来ないのだ。
もう誰にも奪わせないと、私はドレッサーの前で誓う。

かわいげのない女だけど。

化粧した私の顔は「かわいい」と言うことができるが
普段の私はLIMIFeuかY'Sを着てのそのそと仕事部屋とオフィスを行ったり来たりしているどうにも「話しかけづらい人間」である。
だがわたしがのっそりと自分のデスクの前で仕事をしていると必ず声を掛けてくれる同僚がいる。

「アイシャドウ変えました?ラメ良い感じっすね。今日ネイルもめっちゃ良い色じゃないですか。さすがブルベ夏王道行ってますね」

少しハスキーな彼女の声でそう言われると、私はてへ、と笑ってしまってそう?となってしまう。
いわば彼女は隣国のプリンセス。
逆に言えば会社でここまでメイクの話を深掘り出来るのが彼女しかいないという話なのだがーー。
e.mのネックレスがよく似合う彼女は、どっかアンニュイでしっかりとしたメイクがよく似合う意志の強そうな顔立ちをしている。

私もどちらかと言えば「意思が顔の前に出ている」という顔立ちをしているが、
そこの顔にメイクを施して着たい服を着るとどうにも意志の強そうな顔立ちが出来上がる。

それでも私は彼女のことを「かわいい」と思うし、私の意志の強い顔も「かわいい」ところがあると思う。

これを突き詰めていくと「きれいかわいいかっこいい問題」に行き着くが
私にとって「かわいい」は最上級の褒め言葉なのだ。
小さい頃から繰り返された(途中でバッチリ途切れたが)言葉。
しかし呪詛にはならず、いつの間にか「憧れ」の言葉になった。
だからもう一度自分で言ってやるのだ。
「わたしはかわいい」と。

きれいもかっこいいも素敵な言葉で目指したい(むしろそうなるのが順当な容姿と服装をしているけど)
でも心の中のヒメノ・ラン(Ⓒ王様戦隊キングオージャー)が
「ただ我がままに、我が道を行く!」と叫ぶのである。
私のワガママはまとめると「かわいげがなくてもかわいさはある」というところだろうか。

もっとかわいいという言葉に恋い焦がれたい。
一般的で肯定的なわかりやすい「かわいい」とは違うかもしれない私なりの「かわいい」を突き詰めていきたい。
可愛いはフリルやレース、リボンだけに潜む言葉じゃない。
私が着る黒い服にだって、可愛いは宿っている。

そして明日の朝またメイクをする私の表情にだってきっと、可愛いが宿っている。

ちなみに、ここで書き終わろうとしたところで広辞苑で「かわいい」を検索してみたらこうなった。

かわい・い カハイイ 〘形〙(カワユイの転。「可愛い」は当て字)
①いたわしい。ふびんだ。かわいそうだ。
三体詩抄「万民の枯骨となりたるは―・い事ではをりないか」
②愛すべきである。深い愛情を感じる。
「―・い我が子」「―・い声で歌う」
③小さくて美しい。「―・いスズランの花」

デジタル広辞苑第七版より

つまり私は②、「愛すべき」「深い愛情を感じる」という気持ちで、今までこの文章内で「かわいい」と使っていたのである。

わたしはかわいい。
(自分に深い愛情を感じる)

うん。悪くない言葉だ。

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