七夕物語(空想編)
ここは天(あま)の国。
天(あま)の国は、刻む時に重みが無い。
どこまでも優しく指先にシルクが触れるような色無き色が広がる。
音は時を包み込む様な織姫の囁きの歌声と七色の羽根を持つ鳥の囀り....
天(あま)の国は忙しい。
天(あま)にふわりふわりと昇って来る想う恋心。
織姫は想いを受け取り星に変え果ての無い宇宙へ放つ。
人を想う心は輝く星に姿を変え天に広がり輝き照らす光となる。
「姫様、ここで何を見ているのですか?」
七色の羽根を毛繕いしながら尋ねるリン。
「もうすぐ七夕でしょ。
七夕の楽しみの一つをみていたのよ。」
「楽しみの一つとは何ですか...?」
白銀の衣に身を包み艶やかな青みを帯びた緑色が縁取る髪に手を当てながら微笑む横顔。
「七夕が近くなると昇龍の形をした島国が笹に
願いを込めて付けて祈りをくれるの。
私はそれがとても嬉しいのよ。」
「それにね、小さな子供達が...」
「ほらほら、あそこを見て。
お願い事やお飾りをいっぱい付けた笹は
弓の様にしなって...」
「土に着いた笹が歩く程に線を描き素敵な絵に
なるのよ。皆、自分で気が付かないのね。」
少し乗り出し眺め微笑む姫の横顔に、リンと色の違う羽根を持つ鳥達がはしゃぐ。
「 あそこを見て。」
織姫の指差す形の違う国。
灰色の大きな煙と美しさの無い赤く光る光線がチカチカしている。
「 何をしているのかしら。
喧嘩をしているみたいなの。
私にはよくわからないけれど、
伝わる事は悲しみなの。悲しい....。」
「あそこからは何も上がっては来ませんか..」
はしゃぎ遊ぶリン達は羽根を閉じて姫の側に並んで言葉を待つ。
「 関係無いは。」
いつに無く力強い口調で凛とした横顔にリン達は互いの顔を見合い驚いた。
「 灰色の煙の中から上がって来るわよ。
人を想う心。恋心も大切な人を想う心も。
いろんな色の想いは灰色の煙を超えるの。」
「 私は必ず全てを受け取る。」
「 夜空が人の美しい想いで出来ている星で輝け
ば、彷徨う想いは癒されて元気になるわ。
だって...
人は人を互いに愛するために生まれて来たのよ
。いろんな色が出来て当たり前よね。」
並んだリン達は左羽根を高く広げ、右羽根を胸に当て姫にそっと頭を下げた。
「 そう言えば、七夕の日が近くなって参りまし
たね。織姫様も天の川が繋がり、1年に一度の
彦星様と会える日がもうすぐです。」
リン達は姫の周りを飛びながらはしゃぎ声をかけ、踊る者や歌う者で湧き立つ心を誘う。
「 そうね。忙しくて忘れていたわ。」
姫の放った小さな嘘は、優秀な姫の仲間のリンが七色の羽根で包み1番光り輝く星に変えた。
夜空に輝く星。奇跡の星。.....
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