キャラ紹介「アズール」:抑圧と自我の芽生え
旧ニンジャスレイヤー公式サイト、ネオサイタマ電脳IRC空間で行われてたキャラ紹介がいつまで経っても更新されないので、勝手にやる。
(注意:以下の文章には筆者の独断と偏見が多分に含まれています)
◆忍◆ ニンジャ名鑑#195 【アズール】 ◆殺◆
デスドレイン、ランペイジと行動を共にする少女。
デスドレインに拉致され連れ回される中でニンジャソウルが憑依。彼女自身は非力だが、憑依時に生まれた獰猛な透明の狼が彼女の命令を何でも聞く。ストックホルム症候群めいてデスドレインを護る。
初登場は2部アウェイクニング・ジ・アビスからであり、ダークニンジャに腕を切断されたランペイジが巨大サイバネ腕を装着する医院の娘として登場する。
登場時の年齢は14歳であり、登場人物の年齢が明確にされるのはニンジャスレイヤーにおいては実際珍しい。
余談ではあるが、名鑑での紹介から登場まで若干時間を置いたため、絶対数の少ない女ニンジャ(しかも少女)ということもあり読者の期待は大きかったようである。
両親はデスドレインに殺され、以降はデスドレインに連れ回されることになる。
恐怖からかはわからないが、基本的に無口で従順であり、ドゥームズデイ・ディヴァイスにおいてニンジャソウルに覚醒するまでは発言すらせず、デスドレインについて行くだけだった。
覚醒後もキョート・ヘル・オン・アースにおいてデスドレインに命じられるまま殺戮を行うが、ネブカドネザルと戦闘中、デスドレインに置いて行かれる形で地上に落下、再登場は3部を待つこととなる。
詳細についてはwikiのキャラ紹介に書いてあるので省くとして、本稿ではこの3部にアズールが再登場するグッド・タイムズ・アー・ソー・ハード・トゥ・ファインドをメインの対象に解説、考察をしていきたいと思う。
このエピソードは、ネオサイタマの全寮制女子校、スナリヤマ女学院を舞台にミステリ仕立て(若干怪しいところはあるが)で謎を追って行く構成となっている。
しかし、全体を俯瞰してみるとこのエピソードはかなり露骨に神話的モチーフが使われていることが分かるだろう。
ニンジャスレイヤーには度々神話的メタファーが用いられる。これはニンジャソウルが実際神話の登場人物をモチーフとしており、原作者のボンド&モーゼズが北欧神話をしばしば引用することからも明らかなのだが、このエピソードはそれが特に顕著である。
学院という美しい庭園に閉じ込められた少女たち、中心の礼拝堂の地下に存在する「霊樹」、それを支配している蛇、その手入れをする園丁、こういった要素を列挙すると気付くと思うが、スナリヤマ女学院は明らかにエデンの園をモチーフとしている。
エデンの園に類似する楽園を描いた神話は複数あるが、いずれも大木と蛇が中心にあり、園丁と女が何か禁忌を破ったことにより楽園から追放される、あるいはエヌマ・エリシュにおけるティアマトとマルドゥクのように、支配者である蛇あるいは竜を殺して楽園を奪うパターンも存在する。
そのいずれも女は主体となることはなく、園丁への報酬であるか、蛇に騙された愚かな原罪の象徴として扱われる。だが、このエピソードにおいてはいずれのパターンでもなかった。アズール(キカ)は園丁であるワカヤマを拒絶し、連れ去られることなく自分の力で出ていったのだ。
これはユンコやネコネコカワイイにおいて詳しく語られることとなる、拒絶こそが自我の芽生えのきっかけである、というものと繋がっていると考えられる。
また女性を誰かの従属物ではなく、独立した存在と見る、近年の女性の人権運動と関連して見ることもできるだろう。こういったテーマは四部でのウキヨとも繋がって行くのだが…
ここまで考えて行くと、最初のデスドレイン、ランペイジ、アズールという組み合わせが当初から生命の木、園丁、女というエデンの園をモチーフとしていると考えられないだろうか。
触手を伸ばし、人を喰らい無限に拡大するデスドレインは原初の混沌である木そのものだし、コトダマ空間では木の玉座に座っていた。
ランペイジはその野放図な成長をコントロールする園丁であり、しかも両腕はブルドーザーと見まごう土木作業器具である。
アズールがランペイジの両腕を取り付けた医院の娘、というのもエデンの園においてイヴがアダムの肋骨の骨から作られたという逸話をモチーフにしたものだと考えられないだろうか。
まとめると、アズールは単なるキャラクター付けとして無口無表情の美少女と位置付けられていたわけではなく、神話における英雄の報酬としての女性から、拒絶によって自我が芽生えて、一人の人間として自立して行く様子を描いていたのである。