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な327.がされ呼吸を知る



ギターの背面にはある文字が白いマジックで書かれている。
「Heart Beat Beyond Fear」という言葉。

2022年8月3日に青山で開かれた山﨑円城さんの個展に行った。
この年の7月4日にリリースされたライブアルバム「繡-nui-」のジャケットにあるタギングをしてくれたのが円城さんだ。

タギング:山﨑円城 デザイン:little woody

個展でこの言葉に出会った。すべての出品物にびっしり言葉が描かれていた。
「狂ったみたいに描いた」と円城さんは言っていた。

「Heart Beat Beyond Fear」の文字で埋め尽くされたマネキン、それを囲むように置かれた鏡。
目を奪われて、その中に「Beat Goes On!」という言葉を見つけたとき、救われた気持ちになった。
きっとジョンがヨーコの「YES」を見つけた時も同じように震えたんじゃないかと思う。

ミュージシャンが全員ライブを好きかと言ったら多分そんなことはなくて、自分自身ライブは楽しいという感覚はあまりない。
楽曲を作ることや、表現することが好きであって、ライブはその結果を発表する場所、のような感じ。
聴いてもらえる人を増やすことが目的で、作ったものをプロモーションするための機会という考え方に近い。

その前年、11月にスガシカオさんのツアーのオープニングアクトに選んでもらって、400人の前で15分間歌った。
自分のいまできる限りの最大のパフォーマンスをした。
「君の追い風」
「nylon」
まだリリースされていなかった「にじみ」を歌って、いま振り返ってもいいステージだったと思う。
でも、その15分でもうへとへとになって、「出し切った。やっぱ大人数いると吸い取られるや・・・」と楽屋でのびた。そしてその後のシカオさんのライブを観ていたところ、MCでこんな言葉があった。



「やっぱりライブっていいよね。俺はみんなにパワーを与えて、俺はみんなからパワーをもらえる」
この言葉にショックを受けた。
「俺はなんてしょうもないんだ!」と(笑)
パワーを吸い取られたなんて思っている時点でとんだあまちゃんやないかい!
お客さんをなんだと思ってるんだ、と。
自分の身勝手さ。今まで好きなように活動して自然と心や脳みそについてしまっていた埃のせいで、出来上がった考え方を見直すきっかけになった出来事だった。

その言葉をきっかけにしてこれからの表現について考えて過ごす日々が続いていた時だった。
その間にあったことといえば。
「最愛」ができたり「小野雄大vs小野雄大band set」をはじめたり、「惑星」という歌を作ったり、「MOON CHORUS SESSION」というイベントが中止になって急遽弾き語りワンマンになったり、「くしゃくしゃに笑えベイビー!」のレコーディングがあったり、「陽緑帯」の前身となる地元新潟でのイベントを開催したり。今につながるたくさんのチャレンジをした中だった。

個展からの帰り、酔って(身も心も)帰宅し、白いマジックペンを手にしてギターと向き合った。
そして「Heart Beat Beyond Fear」と描いた。

photo by tatsuki nakata



“恐れの向こう側にある心臓の音”

ライブの時、お腹に当たる部分にこの言葉を隠し持っておこう。
不安な時は視線を落として、この言葉に助けてもらおうと、Beat Goes On」を置いた。
おまもりだ。
この言葉はそれからずっとふらふらと浮遊してあやうい不安定のさなかにいた自分を今の場所にしっかり固定するためのありがたい楔の役割を果たしてきた。

今、その文字が消えかってきている。
この言葉を刻んでから二度のIMARGINE Tourを経て、ジャムジカでの札幌band set2デイズ、「くしゃくしゃに笑えベイビー!」レコ発、「陽緑帯」、「あこがれGOLDEN」東名阪ツアーなどを経た。ライブをしていくたびに、なにかがほぐれていく感覚を掴んできた。
今までは吐き出す一方通行だったものが、それが呼吸となり、最初はつまづきながら少しずつ息を吸うことができるようになり、今では会話になった。
その間に必要不可欠だったのは熱量だった。
2024年2月8日、それから約2年の月日が経ち、3回目となる「小野雄大vs小野雄大band set」でようやくお客さんのことを「ファン」と呼ぶことができた。
それは自分にとってとても勇気のいる行為だ。

自分やメンバーと、ファンのみんなが熱量で自分の表現を変え、支えてくれた。それから、ツアー各地で出会ってくれた人たち。その先で流した涙も交わした乾杯も抱きしめあったこともすべてが熱量だった。

去年北海道の飲み屋で出会った人の中に、「あんたはなんかひとつ超えないと売れないよ」「まだなんかひっかかってる感じするね」と言ってくれた女性がいた。不思議と嫌じゃなかった。
はじめて会った人だし、音楽を聴いてもらったこともないけど、そう言われたので、人間性か・・・と思いこの一年色々考えてきたが、なんか今なら「垢抜けたね」「つっかえがとれたね」と言ってもらえそうな気がする(笑)

とにかく、みんなの熱量のおかげで恐怖を乗り越えて今心臓はビートしている。
これからも楽しみにしてもらえるように、みんなをビートさせられるように、たくさん頑張っていくので、よろしくお願いします!

今後のスケジュール
予約先 https://forms.gle/7DAEicmDAvsRhgo27

HP

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