見出し画像

【予備試験・司法試験】合格答案のフレームワーク(第1回:民法 総論)

【読者の対象】入門的な勉強を終えて論文対策に移る段階の方・論文対策中の方


はじめに

論文式試験において合格答案を書くためには、法律の体系を意識しながら、問題文の事案を法的な文章に構成し直し、適切な形でアウトプットする必要があります。

そして、答案のフレームワーク(型)を一度身につけてしまえば、フレームワークに沿って答案を書くだけで「適切な形」を維持することができます
つまり、あとは論証暗記や各論点の処理パターンの把握に力を入れるだけで合格へ辿り着くことができるわけです。

そこで、「合格答案のフレームワーク」シリーズでは、各科目や論点のフレームワーク(必要に応じて処理パターン)をご紹介します。

第1回は民法総論で、民法の答案を書くにあたり常に意識しなければならないフレームワークとなります。
とはいえ、第1回ですので、三段論法の書き方や、論証の展開方法等、他の科目にも共通するエッセンスを盛り込みました。
ぜひご一読ください。

民法の問題の解き方

民法においては、①問題文に書かれている当事者が求めていることを分析し、②それを法律上の権利に引き直し、③権利の発生要件を満たしているかを検討します。その上で、④相手方当事者の反論を考えます。

以下の問題を具体例として検討してみます。

Yは、Xから甲建物の建築を1000万円で請け負った。その際、代金の支払いは甲建物の引渡しと同時にすること、引渡期日は令和5年10月15日であることを約した。
現在は令和5年10月17日であるが、Xは未だにYから甲建物の引渡しを受けていない。
以上の事例において、XとYの法律関係を論じよ。

①当事者が求めていることを分析
この事例を読んだ時、解除とか損害賠償請求とか色々な請求が思いつくと思いますが、まずは落ち着いてXが求めていることを分析します。
XはYに甲建物の建築をお願いしているわけですから、甲建物を手に入れたいと考えているのが普通ですよね。
そこで、XとしてはまずYに対して、甲建物を引き渡してほしいという請求をすることが考えられます。

②法律上の権利に引き直す
本事例では、YはXから甲建物の建築を請け負っているわけですから、二人の間には請負契約(民法632条)が成立していると考えられます。
したがって、Xは請負契約に基づいて目的物である甲建物の引渡しを請求することになります。

*なお、所有権に基づく物権的請求も考えられますが、便宜上債権的請求を具体例として挙げさせていただきます(ちなみに契約関係がある場合にはまずそちらで考えたほうがいいです)。

③権利の発生要件を満たしているか確認
請負契約に基づく目的物の引渡しを請求するためには何が必要でしょうか。

まず、「請負契約に基づく」請求ですから、XY間に請負契約が有効に成立している必要があります。
民法632条を確認すると、以下のように書いてあります。

請負は、①当事者の一方がある仕事を完成することを約し、②相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

番号は筆者が追記

これによれば、①と②の要件を満たせば、請負契約が成立することになります。
本事例では、YがXから甲建物の建築を請け負っていますから、①が認められます。そして、Xはその対価として1000万円を支払うことになっていますから、②も認められます。
したがって、XY間には請負契約が有効に成立していることになります。

次に、本事例では当事者間で引渡期日の合意がありますから、その日が到来していなければ引渡しを請求することができません。
本事例では、令和5年10月15日はすでに経過しているため、この点は問題になりません。

④相手方当事者の反論
ここで、Yの立場に頭を切り替えて分析します。Yとしては、甲建物を引き渡してもお金がもらえなかったら困っちゃいますよね。
なので、Xにお金を払ってほしい。逆に言えば、Xがお金を払うまでYは甲建物を引き渡したくない
そこで、Yとしては同時履行の抗弁権(民法533条)を使って反論することが考えられます。

他にもXがなし得る請求は考えられるため、答案においては網羅的に書く必要がありますが、考え方は同じなのであとはこれを繰り返すだけです。

民法の答案のフレームワーク

それでは、以上で検討したことを答案に落とし込むためのフレームワークをご紹介します。

まず請求の根拠となる権利(訴訟物)と求めたいこと(請求の趣旨)を書く

Xは、Yに対し、請負契約に基づく目的物の引渡請求として【訴訟物】、甲建物の引渡し【請求の趣旨】を求めることが考えられる。

訴訟物と請求の趣旨については、民事実務基礎の勉強が進んでいる場合にはできる限り適切な形で記載するのが望ましいです。
しかし、必ずしも正確に記載する必要はなく、はじめのうちは概ねどの権利に基づいてどういう請求をしているのか採点者に伝わる程度の記載があれば十分でしょう。

権利の発生要件を充足しているかを確認する

ベーシックなフレームワーク

 請負契約に基づく目的物の引渡請求をするためには、その前提としてX Y間に請負契約(民法632条)が成立していることを要する。
 本事例においては、YはXから甲建物の建築という「仕事」の「完成」を約し、その対価としてXはYに1000万円の「報酬を支払うこと」を約している。
 したがって、XY間には請負契約が成立しているといえるため、Xはかかる請求をすることができる。

以上のように、条文の文言に沿って本事例において要件を満たしているかを書きます。

定義を明らかにし三段論法を使うフレームワーク
また、民法632条とは異なり、要件の意義が一義的に明らかでないものもあります。その場合は、以下のように三段論法で要件の当てはめをすることになります。

(1)「○○」【条文上の要件】とは、…【定義・規範】である。本件でXは〜〜【事実】であり、◇◇【評価】だから、…【定義・規範】であるといえ、「○○」【条文上の要件】にあたる。
(2)「△△」とは、…のことをいう。本件でXは〜〜だから、…といえるため、「△△」にあたる。
(以下同じ)

具体例は以下の通りです。

(1)Xは「賃借人」にあたる。
(2)「賃貸人の負担に属する必要費」【条文上の要件】とは、賃借物を使用及び収益に適する状態で保存するために必要な費用【定義・規範】をいう。
 本件では甲建物の雨漏りを直すためにXが費用を支出している【事実】ところ、雨漏りがあると建物を適切に使用することができず、これを直す必要性があった【評価】から、これは甲建物を使用及び収益に適する状態で保存するために必要な費用であると言える【定義・規範】ため、「賃貸人の負担に属する必要費」【条文上の要件】にあたる。

賃借人による必要費の償還請求(民法608条1項)の例

要件が論点となっている場合のフレームワーク
さらに、要件の解釈が論点となっているケースもあります。その場合は、以下のような流れになります。

(1)「△△」とは、…のことをいう。本件でXは〜〜だから、…といえるため、「△△」にあたる。
(2)では、Xは「○○」【条文の文言】にあたるか。〜〜であるため問題となる【問題提起】。
ア 〜〜とは◇◇であるため、、【理由づけ】。
 そこで、「○○」【条文の文言】とは、……をいうと考える【規範】。
イ 本件では、、【あてはめ】
ウ したがって、〜〜である【結論】。

具体例は以下の通りです。

(1)甲建物の所有権の移転は、「不動産に関する物権の得喪」にあたる。
(2)では、Yは「第三者」【条文の文言】にあたるか。その意義が不明確であるため定義が問題となる【問題提起】。
ア 177条の趣旨は、登記による物権変動の公示により不動産取引の安全を図る点にある【理由づけ】。
 そこで、「第三者」とは、当事者及びその包括承継人以外の者であって登記の不存在を主張する正当の利益を有する者をいうと考える【規範】。
イ YはZから甲建物を譲り受けているところ、XもZから甲建物を譲り受けているため、YとXはZを起点とした二重譲渡の関係に立つ。そうすると、ZとXは甲建物の物権変動にかかる当事者ではない。そのため、YはXの登記不存在を主張する正当の利益を有するといえる【あてはめ】。
ウ したがって、Yは「第三者」にあたる【結論】。

「第三者」(177条)の意義の例

以上が論証を用いる場合のフレームワークです。
答案作成に慣れてきたら、必要に応じて問題提起や理由づけを省略することも考えてみてください。
また、民法では事実の評価が難しい場合も多々あるので、思いつかないときは評価を飛ばしても大丈夫です。

いずれのケースであっても、要件を全て満たしていることは必ず確認する必要があります。要件を満たさなければ法律効果は生じ得ないからです。

相手方の反論を書く

相手方の反論(本事例であれば同時履行の抗弁権)も、上記と同じ形式で書きます。

結論を書く

最後に、必ず結論を書きます。

以上より、Xの請求は認められる/認められない。

なお、結論は問題文の問いに合う形にする必要があります。

おわりに

民法の答案のフレームワークは以上の通りです。
民法にフォーカスしてご紹介しましたが、これらの考え方は全科目に共通する普遍的なものです。
したがって、本Noteで紹介したフレームワークを身につけることができれば、民法だけでなく、論文そのものの実力が大きく伸びるはずです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?