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#75-C 『カエルの子はカエルか』

 小学校の低学年の段階では、一部の子どもを除き、学力も運動能力も極端な差は生じません。しかし、学年が上がるにつれその差は大きくなり、中学段階になるとその差は歴然としてきます。いったい、その差はどこから来るのでしょうか。
 子どもが親の遺伝子を強く受ける分野として、運動芸術が挙げられますが、学力もその側面が強いと言われています。100m走について、”努力すれば誰でも10秒を切ることができる。”と言う人はいませんし、誰一人それを信じる人はいないでしょう。日本の教育では、”頑張れば誰でもできるようになる、勉強は!”そう教わり、そう信じて、そう受け継がれてきました。

しかし、本当にそうなのでしょうか?調査統計によると、東京大学の学生の親の年収平均が最も高く、ついで慶應義塾大学で戦後調査が開始して以来一度も変動したことがありません。
 「親の学歴、親の経済力と子どもの学力の相関に関する研究」は、潮木守一氏(名古屋大学名誉教授、教育社会学者)、苅谷剛彦氏(オックスフォード大学教授、元東京大学教授)がよく知られていて、学会の発表のみならず著書としても一時話題になりましたが、教育行政も教育現場も”勉強は努力次第”の本流に一石を投じても、風穴を開けるところまでには至りませんでした。親の学歴を過去にさかのぼって上げることも、経済力を一気に引き上げることも現実には不可能に近い問題です。そうなると、やはり『カエルの子はカエル』の結論に行き着くことになるのでしょうか。

 「遺伝子」、「経済力」、もう一つは「知的レベル」の問題があると私は考えます。経済力と知的レベルの相関は高いと言われていますので、総じて経済力のある家庭の子どもは、知的レベルが高くなることは想像に難くありませんが、「知的レベル」を高めるには家庭のあり方に工夫の余地があると考えます。
 長年教育に携わってきた経験から、子どもの学力の伸長を阻む親の例を数多く見てきました。悪例をあげさせていただきます。
・経済的な余裕がないから、塾に行かせられない。
・家が狭いから、勉強部屋を与えられない。
・小さい子どもがいるから、上の子に手がかけら
 れない。
・運動は得意だけれど、勉強はもともと不得意。
・親の学力がさほど高くないから、子どもに期待するのは無理。etc.
 これらの例を見ても、多くの大人は、どうすればできるようになるのかと考えるのではなく、できない理由を探しがちです。”塾に行けば必ず成績は伸びますか?”・・・”多分”。”勉強部屋を与えれば必ず成績は伸びますか?”・・・”多分”。

 同じような家庭環境から、子どもがその後成績も向上し、夢に近づけた子どもとそういかなかった子どもの例を紹介してみたいと思います。
<A君の家庭>
・A君は帰宅後、宿題や一定の家庭学習の習慣は身につきました。
・父親は、帰宅すると”あー疲れた、疲れた”と言ってビール片手に野球中継
 に夢中になり、ひいきのチームが負けると夕食も取らずに休んでしまう。
・母親は、台所でスマホの動画を見ながら、チンするだけの夕食の準備。
・弟はゲーム三昧で、食事中もゲームから手を離さない。
・食卓でも、テレビはつけっぱなしで、ほとんど会話もなく、食事が終わる
 と自分の部屋にそれぞれこもってしまう。
<Bさんの家庭>
・Bさんは、帰宅後、宿題や一定の家庭学習の習慣は身につきました。
・父親は、帰宅すると家族全員に声かけをし、目指している資格試験の
 勉強に取り組むことにしている。
・母親は、安くとも栄養バランスに気遣い、誕生日などには手作りのケーキ
 を欠かさず作ってくれる。
・弟は、母親の夕食準備中読書をする決まりを親子でたてて実行している。
・食卓では、テレビは見ない約束で、どうしても見たい番組は録画すること
 にしている。食事中は、両親は聞き役に徹し、子どもの話が中心であるが
 ノーベル賞など大きな話題は親が情報提供に努めている。

 子どもを伸ばす家庭は、<Bさんの家庭>であることは容易にわかると思いますが、「やるかやらないか」、「できるかできないか」の差は非常に大きいものです。その他子どもを伸ばす家庭で親が多く取り組んでいることを少し上げて見たいと思います。
・教養的は番組以外は子どもの前で見ない。
・新聞や読書など文字情報に親しむ習慣がある。
・音楽や書道など創造的な活動や趣味を持ち、継続している。
・勉強も強要するのではなく、学ぶことの意義や学力を高めることは自分の
 将来の可能性を開くことを教える。
・努力したことを認めてあげ、成績に一喜一憂しない
・地域のクリーン活動やボランティア活動に無理のない範囲で参加する。

 子どもは自分たちの宝であると同時に社会の宝でもあります。学校と手を携えて、しっかり教育し社会に送り出していくことは、親の務めでもあり社会の構成員の一人としての役目でもあると思います。



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