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2023/3/16: まいにち だれかの ひとことを こころに。

 子供の頃から私は自分の胸の奥深いところに神聖な火が燃えているという、動かし難い感覚を持っていた。それは誰にも冒させることのできない、絶対的な存在感なのだ。しかし、現実には、幼い私は非力であり、学校でも、近所隣でも、理不尽で不当な力が常にそれをおびやかし、押しつぶそうとした。ぼくは特別エゴサントリックでも強情でもないが、ゆずることのできないものだから、しがみついて、頑張る。それはみんなに理解されない孤独で絶望的な闘いだった。
(…)
 胸をおさえて、自分の身のうち奥深いところに無言で燃えている炎だけを見すえ、抱きしめた。
 あるとき、パッと目の前がひらけた。
 …そうだ。おれは神聖な火炎を大事にして、まもろうとしている。大事にするから、弱くなってしまうのだ。己自身と闘え。自分自身を突きとばせばいいのだ。炎はその瞬間に燃えあがり、あとは無。ー爆発するんだ。
 自分を認めさせようとか、この社会のなかで自分がどういう役割を果たせるんだろうとか、いろいろ状況を考えたり、成果を計算したり、そういうことで自分を貫こうとしても、無意味な袋小路に入ってしまう。
 今、この瞬間。まったく無目的で、無償で、生命力と情熱のありったけ、全存在で爆発する。それがすべてだ。
 そうふっきれたとき、ぼくは意外にも自由になり、自分自身に手ごたえを覚えた。もちろん、生活の上で、芸術活動の上で、さまざまな難問や危機は次々と押しよせてくる。しかし恐れることはない。

 ー岡本太郎「自分の中に毒を持て」よりー


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