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2023/3/14: まいにち だれかの ひとことを こころに。

 おかしなこと、と雪のひとひらは思いました。どちらをむいても、わたしとおなじ、生まれたばかりの雪の兄弟姉妹がこんなに大勢いるのに、それでいてこんなにさびしくてたまらないなんて。
 そう思ったとたんです。雪のひとひらは、何かこうなつかしくもやさしい思いやりのようなものが、身のまわりをすっぽりつつんでくれていることに気がついたのです。だれかがこちらのことを気づかっていてくれるらしく、その感じがほのぼのと、こころよく、雪のひとひらの全身に、くまなくみちわたりました。
 もうすこしも、さびしいとは思いませんでした。だれかがこちらを思っていてくれることがわかるとともに、なぐさめとよろこびが胸にわきおこり、雪のひとひらは、安んじてそのしあわせに身をゆだねたのです。
 それでもまだ、おのれというものの秘密が、すこしでもとけたわけではありませんでした。この身をつくりだしたのは、はたして何者なのか。どのような目的があってのことなのか。また、このしみじみとした、心なぐさまる思いはどこからもたらされるのか。雪のひとひらは、それが知りたいのでした。それがわかれば、その何者かのそそいでくれるいつくしみに、いくぶんなりと報いることもできます。いま、こうしてこんなにみちたりた、やすらかな気持でいられるのも、つまりはそのおかげではありませんか。もしかして、この旅路の果てまで行きつけば、そのひとのことがもっとよくわかってくるかもしれないのでした。

ーポール・ギャリコ「雪のひとひら」よりー
(矢川澄子訳・新潮文庫)


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