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雑記 261 神戸三ノ宮下車

神戸、三ノ宮で降りた時は、最近にない土砂降りだった。傘もたいして用を成さず、しばらく線路の下のパブに入り、雨脚が弱まるのを待った。
少し小降りになったので、店を出て、かねてから行きたいと思っていた「北野工房のまち」に寄った。
コロナで長く閉館になっていて、やっと営業が再開された。

北野小学校の校舎を出来るだけそのままの形を残して作り変えた「北野工房のまち」。
昔教室だったところに、それぞれ紙漉きや硝子細工、和蝋燭、手芸など、各種の工房や食べ物屋が入っている。

中に、今まさに授業が始まろうとしている一室がある。
並んでいるのは、
授業の始まりや終わりを告げるチャイム。
木製の黒板。
算数に使う大きな三角定規や分度器やコンパス。
黒板の隅に、A3ほどの大きさの時間割り表。
足踏みオルガン。
KAWAIとある。
白い三角巾をしたエプロン姿の給食当番が、
コッペパンを配る様子が見えるようだ。

時は、全ての人から本当に遠く過ぎ去って行った。

「北野工房のまち」を出て、緩やかな坂道を下って、駅に向かう。
以前、一時、摂津本山に住んでいたので、三ノ宮にも時々足を延ばし、その時に通ったTOA RODE。

私が摂津本山にいた頃にはなかったが、今回、不思議な店(工房)が出来ていた。

狭い間口の店のウインドウには、
手の込んだ品々が並び、
ガラスに顔を近づけて中を覗き込む。

値段は一切付いておらず、
不思議な作品の陳列。
店の入り口に、ゼンマイ時計の中身を利用した、
振り子が、
「お気軽に 
 おはいり 
 ください」
と揺れていた。

中に入ると、更に、手の込んだ品々があって、
長さが、1メートルもある振り子が揺れていた。
ゼンマイはあるが、時計としては機能していない。

中に灯りがついている置物で細かく作り込まれている作品があった。その手の込んだ作品は「ぶたの王様」と題がついていたが、その物語は、作成した店主にしか理解できない壮大なストーリーがあるのだろうと思われた。

と言っても、
分からないことが、心を苛立たせないで、却って、心地がよい異空間が広がっていた。

これは値段がついていないけれど、いくらで売るのですか?
と聞くと、

売りません、
と返事。

注文で作っているらしい。
愛想もよくないが、それすら、こんな作品を作る人だもの、普通かもしれない、と思えてくるのだった。

狭い店のどん詰まりで、その店主が、黙々と作品を作成中。
この店自体が、謎の空間。
絵本の中に迷い込んだようだ。

ここは、有名なア ラ カンパーニュ。
店は昔のままあって、美味しそうなフルーツタルトが並んでいた。

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