雑記 978 空師の情け

画像1 空に一番近いところで仕事をするから、職業は「空師」と植木屋は言った。その名は格好つけているわけではなく、江戸時代からそのように言われていたものだ。私の家の周りには大きな木が多く、木の下を通ると、陽の光が木々の葉に遮断され、仄暗い。そんなある日……
画像2 電力会社の工事に使うようなフォークリフトがやって来て、植木屋が、チェーンソーの音も高く、次々と木の枝を切り始めた。
画像3 木々が大きくなって、近隣の人から苦情が出ていることは知っていた。木の葉が庭に落ちる。樋に詰まる。枯れ葉が飛んでくる。お日様を遮って、日当たりが悪くなる。桜の時期、美しさを享受するはずなのに、桜など全部切ってしまえ、という勢いである。2日間かけて、桜や欅の枝は払われた。
画像4 音がしなくなった後、我が家の裏を覗くと、何だか電信柱になったような木々の有様。
画像5 ♪♪♪
画像6 夜になって、隣のマンションの灯りがいつもより明るく部屋に入ってくると思ったら、木の枝がほとんど切られてしまっているのだった。
画像7 少し前までは、枝を払う、と言っても、こんなことはなかった。でも、語気荒く、木が邪魔だ、と言う人が、ひとり、ふたり。木の持ち主は、やむを得ない、と思ったのだろう。自分の快適な生活のことばかり優先して……木のことは考えない。これが、都会の人のありがちな姿かも知れない。
画像8 ところが、ベランダに出て、手招きをされたような気がして見ると、私の大切にしている木の枝は、そのまま残っていた。
画像9 昨年、木の根がこちらの敷地に入り込んで、家の下に潜って家を傾かせるほどの勢いで、2階の洗面所の水が流れなくなってしまった。詳細は、省くが、家に沿って大蛇のようにうねった木の根が、樋の金具もぶっ飛ばし、もう少しで家を持ち上げるところだった。それで、木の根を切るのに1週間かかった。終わった後見上げると、木の枝もバッサリ切られており、あーーー、と私は落胆した。下の根を切ったら、その分は上も切らないと、木がだめになってしまうからね、と空師は言った。木へのお詫びに、私はワンカップ大関を買い、根元に撒こうとしたが、、
画像10 空師は、木はその程度のことで枯れてしまうので、本当に切ってしまう時以外は、塩も酒も撒かないのだと言った。私の落胆した姿を見て、なぁに、またすぐ生えてくるさ、と空師は言った。そして今回、私の木は、伐採を逃れ、青々と葉を翻している。有難い心遣いに、言葉もない。
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