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クラゲ事件②

幼な過ぎるモトオ

モトオは魚を取って子供ように喜んでいました。私が「ちょっとって言ったのに、何時だと思ってんの? 足の腫れ、酷くなってるんだけど!?」と言って、彼を責めると、そこでも叱られた子供のように黙っていました。

魚だって冗談かと思いましたが、彼は本気で日本に持って帰ろうとしていたのです。酸素や容器など色々持ってきていて、翌日魚が死んでいなかったら実行していたことでしょう。

男性は女性に比べると子供っぽい行動を取ったりする人が多いので、度を越していると思いましたが、彼が時々子供に見えるのは、その手のことかと思ってしまったのです。


話を戻すと、その時、ホテルに戻りたくてもその島は離れていて、時間も14時を過ぎていました。船着場の前にレストランがあり、美味しそうな匂いと、お酒を飲みながらおしゃべりする人たちで賑わっていたのですから、寄りたいと思うのは普通のことだと思います。しかもこの日、モトオが時間を間違えたせいで、私たちは朝食が食べれなかったのですから尚更でした。


彼の本当の理由は【列に並べない、賑やかなレストランに入れない、先の事を考えられない、自分の事しか考えていない】だった



私が「レストランに入ろう」と言うと、モトオは「並んでるじゃん!」と言って、なぜか入るのを拒んだのでした。

島唯一のレストランは確かに混んでいて、数組並んでいましたが、ここで入らなければ、食事は更に遅くなるのは明らかでした。

「ちょっと待てば、すぐ入れるよ。 それに待ってる間に氷をもらって足も冷やしたいし。 朝から何も食べてないから、お腹が空いて死にそう!」

と私が言うと、モトオは

「ホテルにあるレストランなら、並ばなくても入れるでしょ」と、この状況下で言ったのです。

そこからは何を言っても聞かないので、結局、船に乗るしかありませんでした。

けれど、モトオがさんざんこっちの方が早いといっていた船は、実は出発まで時間がかなりあったのでした。

「今からでも戻らない?」と私が修正に回っても、彼は頑として動こうとせず、私たちは目の前で、楽しそうに食事をする人たちを指をくわえて眺めるしかなかったのです。彼のいう通りにすると痛い目にあいました。

これが彼の主役のアワード旅行だとか、この時私はクラゲに刺されていたとかいう諸々の理由で、私に選択権がなかったは大きな事でした。


本当のモトオ


本当のモトオは、人の為に自分の意見を曲げることを嫌う人だとか、人が怒っている原因が自分の言動にあるとはまったく思わない人いう事が原因だったのですが、知らずに関わっていたので、振り回されるのは当然でした。

この時のように彼が本性をずっと出してくれていたら、結婚はなかったと思いますが、彼は結婚というゴールの為、とことん本当の自分を隠していました。

私の居た環境も彼には良かったのです。欧米社会の中で見ると、日本人男性はシャイで幼い印象があり「変だけど日本人男性は、これが普通」という枠に入ってしまったのです。そして、日本に帰ると、その愚痴は「男の人はみんなそうでしょ」と言われることになったのでした。

彼が列に並ぶことを好きでないことは知っていましたが、私も好んで列に並ぶタイプではなかったので、気の合うところと思っていました。しかし、その理由はまったく違っていて、彼の理由は特性でイライラして並べないからでした。そして、それを本人の口から聞いたのは、結婚から18年後、彼に診断が下りた後だったのです。

彼が思い込みで船に乗り込んだのも、先のことを読むのが苦手だったからでした。人に言われて修正できないのも、自分の非を認められない特性が強いので、我を通すという訳です。


理解し難いのは何も考えていないから


ホテルに帰ってきた時は、15時を過ぎていました。そして、彼が並ばずに入れると言ったホテルのレストランは、見事に全て閉まっていました

18時から受賞パーティーが予定していたので、考えれば当たり前でした。

私は空腹と失望でかなり腹を立てていましたが、熱が上がってきて朦朧としていました。とにかくフロントに行って薬か何か冷やすものをもらってきて欲しいと頼むと、彼は手ぶらで帰ってきて「何もないと言われた」と平気で言ってきたのです。

結局、私は自分で電話をし、足を冷やす氷をホテルの人に持ってきて貰いました。彼は見事に何もしませんでした。病人を目の前にしてこの行動は、やはり普通では考えられないことでした。

熱がどんどん上がっている感じだったので「パーティーに行けない」と言うと、そこでモトオは急に動転し、「オレの受賞パーティーだぞ!」と言い出しました。

私の状態を見たら分かることなのに何を今更、でしたが、私は熱で意識がなくなっていきました。

モトオがパーティから帰ってきたのは、22時を過ぎていました。ご機嫌で戻ってきたので、私はよかったね、と話を聞き、それから「私のご飯は?」と聞くと、彼はなんと

「え、食べんの?」と、返してきたのです。

驚いたというか、頭がどうかしそうでした。食べ物の恨みは怖いものです。

「今から行って、何か食べ物貰ってきて!」と言っても、「無理」の一点ばりで、私はその夜、婚約破棄を考えました。

翌日、熱が下がった私が口を利かないでいると、彼は一変して平謝りに謝り、いつもの優しいモトオに戻っていたのでした。そして、私はまた騙され続けたのでした。


厄介な脳


ムスメにこの話をすると、またしても驚く答えが帰ってきました。モトオがご飯を持ってきてくれなかった事に関して、

「私も分かんないかも。 だって、言われてないから」と言うのです。

「でも、ママが何も食べてないことは分かるよね?」

「うーん。 でも、やっぱり言われなかったら、分かんないかな」

だそうです。つまり、こういう脳なので、必要と思うことは全て細かく指示しないと分からないのでした。

対策は、経験させるしかありません。お互い嫌なことにならないよう、できるだけ場数を増やして、こういう時はこうするもの、ということを覚えて貰おうという作戦で、いろいろやってもらっているところです。

今のムスメのように話し合える状態にあっても、理解し合うのは難しいですから、お互い努力しなければいけません。
なので、特性を自覚せず、傍若無人でいる人とうまく暮らせるはずはないのです。

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